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僕は一つの仮説を立てた。
僕は初代のクー=デュランではない、だが初代のクー=デュランは核から生まれた未知の生物で、僕がたまたま核に取り込まれたため、彼の記憶を辿っているのだ。
過去に来ているわけではなく、過去の出来事を再現しているのだ。
そう考えると、未来改変は出来ないのか? と疑問に沸く、だったら自分の思うとおりに動けないのか? と、思ったが、動けるのだ。
この仮説も駄目なのだろうか。
だが、そうであると願いたい。
そうでなければ、僕は何度も何度も――ベロニカの為に戦ったからだ。
エマ=クンツは邪教の徒として各国から恨まれていたようだ。死んだ後も、刺客が現れて次代の魔女を殺そうとした。
殺した。殺した。殺した。
前時代的というか、刺客は一対一を好んだ。
以前、シグルズが言ったように一対一を好んだのはクー=デュランではなかった。
時代がそういう時代だったと言うことだろう。
数ヶ月に一度、核の元へ行き、魔女になれないか試したが、いつも失敗だった。なにかしらの方法があるのだろうけど、エマが亡くなってしまい方法はベロニカが試行錯誤で行うしかなかった。
エマは魔女になる前に、ベロニカを産んだそうだ。
と言うのも、
「魔女になると、子どもを作れなくなるんだって」
だが、エマは子どものベロニカを連れて行った。そうなると、魔女の試験は一挙に行うものではなく、段階的に行うものなのかもしれない、通っていけば徐々に謎が解けそうな気がした。
子供が出来なくなる――ベロニカはそれを無感情に言ったが、年を経るに連れて語らなくなった。
「子どもが欲しいな」
それは、保護者と被保護者の関係を打ち破った。
核の修行へ向う道すがらだ。
月夜、桜を眺めていた。まだ咲き始めだった。
「桜は綺麗だ。いつか、この国中に咲いてほしいな」
「そうだね」
ベロニカはすでに15歳、僕は21歳になっていた。
そう――ここに来てからすでに五年になっていた。
僕がベロニカ育てられた五年分、僕は幼い頃の彼女を愛した。
「クー。あのね」
「どうしたの?」
「私、魔女になりたくない」
「どうして?」
「子供ができなくなるんだよ? 私、子どもがほしい」
核の魔女修行が終わりつつあった。なんとなくだけど、直感でそう思っているそうだ。
ベロニカが服を脱いで、僕に身を預けた時は、さすがに驚いた。
「クーの子どもが欲しい。でも、魔女になったら、子どもができなくなる」
「……あのな」
魔女に子供はいない。
「私を、抱いて、お願い」
僕は無言で拒否をした。
ベロニカは無言で服を着て、次の日、僕たちは核の間へ行った。
そこには、ベロニカの母親を殺した黒い魔物がいた。
ベロニカは驚き、怒りで魔法を唱えた。
最後の試練なのか、僕は取っ組み合いになり、ベロニカと一緒に戦った。
だが、強い。
僕がここに来たときと段違いの強さだった。
「神龍の魔女……」
黒い魔物が呟いた。
これは、イブリースか? 未来にいなければ知りえない言葉だ。
僕は離れ際に、剣で斬りつけた。
黒魔物は苦しみ、核にはいった。
すると、発狂した女の声が響いた。
地震が起きて、核が震えた。
「核が!」
前と同じだ。
核を正常にさせるには、脳が同一化しなければいけなかった。
一つの狂気に、一つの正常では対応できない。
一つの狂気に、二つの正常が必要だ。
「さよなら……ベロニカ」
僕は核に飛びこんだ。
「えっ?」
「ベロニカなら必ず魔女になれる」
「何を」
「たぶん、これでサヨナラだ」
五年でベロニカは驚くほど成長した。
もう、クー=デュランもいらないだろう。
「どうして? サヨナラなんていやだよ」
「また会える」
「いつ?」
「百三十年後に」
僕は再び核に取り込まれた。
そして、再び呼ばれた。
「召喚術! クー=デュラン」
柔らかい枕、眼を開くと、大人のベロニカが僕を抱きしめていた。一緒に出た黒い魔物は、ベロニカの隣にいる女に格闘術で圧倒されて消滅させられた。
「ベロニカ……」
僕はもう魔女と呼べなかった。
「ふー、やっと戻ってきたか、五年も待たせやがって。いや、百四十年か」
僕とベロニカが会ったのは、十年前。
だから百三十年後と言ったが、すでに十年経過している。
だから、百四十年後だった。
「全部分かっていたの?」
僕がクー=デュランと言うことを。
「あの日、断られたことを文句言いたくてな」
ベロニカは保護者の目で僕の頭を撫でた。
「やった。蘇ったんだ」
見たことの無い冒険者だった。胸が大きく、体もでかい、黒い魔物を圧倒したことからも実力の高さが分かるが、声の感じからかなり若いようだ。
「よかったな! クー!」
……はあ?
待て待て待て、この耳、この尻尾……。
僕は胸をつかんだ。
「ちがーう! お前は断じて、コロネじゃあない!」
「胸を掴んで言う言葉か!」
僕は滅茶苦茶強くなったコロネにぶん殴られた。
「僕より背が大きくなってやがる」
むかむか。
「へっへーん! どんなもんだい。あと、巨乳だよ」
魔女が獣人は貧乳だといったのに、何を食ったらそんなにでかくなる。
僕は服を着せられ、遺跡の外へ出た。あの後、世界は救われて、ジニーはうろたえる民の前で女王陛下になることを宣言したそうだ。そして、地球からの漂流者からヒントを得て、民主主義に移行しようとしているそうだ。
「民主主義か……いつから始まるんです?」
「あと、二・三日で、ジニーの退位の式典が始まる」
遺跡の外へ出たときに、湖だったところは台地になっていて、岩にヘルメスが刺さっていた。遺跡の場所を告げるように、太陽に輝いていた。
「よし、間に合ったから行くぞ……。召喚術、翼竜!」
ベロニカが唱えると、ジニーが乗っていたような翼竜が現れた。
「ベロニカ……良いのか、借りて」
「ああ、魔女の騎士卒業を祝して、翼竜をやる。創生の伝説に翼竜が来て、伝説の終末に翼竜が来る。良い幕引きだろ? 脚本家、私!」
えっへんと、ベロニカは胸を張った。
僕は翼竜に乗って、王都の方向を向いて飛んだ。
ベロニカは小さく呟いた。
「さよなら、私の初恋の人」




