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ベロニカ=クンツは涜神的な美しさを持った女性だったが、少女の頃は無垢で出来たような美しさがあった。だが、黄金の麦を想起させる髪だけは変わっていなかった。
僕たちはベロニカの母親の墓を作った。
僕が核に触れる前に見た墓と似たような形だった。
名前はエマ=クンツ、彼女も魔女だった。
エマはベロニカを魔女にするために、遺跡を訪れたそうだ。だが、核から突如現れた魔物に襲われて殺されたそうだ。
その時、僕が現れた。
僕は、クー=デュランと名乗った。
初代の魔女の騎士は、クー=デュランだ。
どういうことだ?
彼女はまず間違いなく、ベロニカ=クンツだ。
そう考えると、僕が核から出られた理由も分かる。彼女は僕を召喚したのだ。僕を召喚できるのはベロニカ=クンツ以外ではありえない、だが何故、僕は過去に来たのだろう。
答えは出なかった。
僕はエマの持っていた迷宮の地図を頼りに外へ出た。そして商業都市ノイルを目指して旅をしたが、着いた途端にここは過去だと確信した。
小さな街だった。
城壁すらない、商人がちらほらといるだけだった。
ノイルと判断できるのは、景色だけだった。
ベロニカは家に帰りたいと告げたので、僕はあの家を目指して旅をした。
僕は道すがら赤龍の言葉を思い出した。あれは空島へ向う前の会話だ。
「核はワシにとっても格上だ。古代人の全てが封じ込まれた、いわゆる神のような存在だ。それは、時という概念さえも無いと言われている」
時の概念がない、時を知らない――それは過去、現在、未来が無いと言うことだ。僕は色々あって核に吸収されたため、全ての時間帯に存在してしまった。そして、過去のベロニカが僕を召喚してしまった。
だが、そうなると時系列がおかしくなる。
いや、間違っていないのか。
時間の概念がないということは、過去にも行けるということだ。だが、そうなると未来への影響はどうなるのだろうか、未来を違うものに書き換えることが出来るだろうか。
そう考えると、僕は余計なことをしてはいけないという事になる。
僕は前を歩く、ベロニカの髪を手漉きした。この行動はして良い行動なのか分からなかったが、予想外の行動をしてみたかったからだ。
「ベロニカの髪、綺麗でしょ?」
「ああ、そうだね」
「ありがとう、嬉しい!」
ベロニカは家に帰るまでに、僕に徐々に慣れ、そして母親の死を忘れようとしていた。だが、母親から開放されるには月日がかかった。
僕はベロニカの家に着き、懐かしさに涙が出そうになり、記憶よりもずっと新しい家に感動した。ベロニカが鍵を探して、扉を開くと、僕が五年間過ごした家は新しくなっていた。
僕はベロニカに別れを告げようと思った。これ以上、ベロニカと関わっていたら、未来がどのように変わるか分からなかった。
核に戻らなければ、という気持ちがあった。
ベロニカは絶句した。
「さよなら」
ベロニカは何も言わなかった。
踵を返して、歩いて、走って、結局ベロニカの元へ戻ってしまった。
ベロニカは料理に悪戦苦闘していた。
「しばらく、泊めてもらっていい?」
「うん。いいよ」
ベロニカは最初怒っているようだったけど、僕の作った料理を美味しそうに食べると、笑顔になった。
僕の魔女。
僕に人生をくれたもう一人の恩人。
ベロニカを悲しませるなんて、僕には出来なかった。




