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常世と鳴子が打ち合い、火花を放って、強風に舞い上がった。花火のように美しく、砂も土も彩るように舞った。島は力を失ったように降下している。足元は悪く、必殺の一撃を放とうとするも、自然と力の無い打ち合いになった。
だが、必ず勝機はある。
それを掴めるかどうかは運命の寄る辺だ。
「お前は未だ強者とはなっていない。だが、見える」シグルズは鳴子を構えて、ふらふらと揺らした。「お前の未来に栄光の道があることを、それを運命付けられているのが見える。……その運命を粉々に破壊する。そうなれば俺は救われる。運命を超える力を得たと笑って死ぬことができる」
「死にたがりに負けるわけにはいかないね」
永劫に続くと思われた剣の嵐が続き、シグルズの足場が崩れて体勢も崩れた。迷ったが、飛び上がりながら上段から打ち下ろした。
鳴子に弾かれたが、シグルズは倒れた。
シグルズは倒れながらも鳴子を打ち上げた、体勢が悪いので力が入っていないと思ったが、反射的に常世で防御した。
それは正解だった。
体を打ち上げられ、空中で緩やかに回転した。シグルズが足場を蹴って飛び、空中で身動きの取れない僕に突きを入れた。
心臓を狙っていた。
体を捻った。
肩が熱い、突きは心臓を外した。
「ちっ」シグルズは舌打ちをして、鳴子を抜き取ろうとしたが、僕の手が伸びてシグルズを掴んだ。体を離さなければ鳴子を抜くことはできない、僕は常世の刃を握って短く持った。
常世を血が濡らした。
空中で僕たちが交わした視線は悪くないものだった。
常世が一瞬のうちに振られて、シグルズの首から血が吹出した。
浅い。
そして、両目に血が入った。
二人で地面に墜落して、シグルズ僕を足蹴にして鳴子を勢いで抜き取った。そのまま、上段斬り、僕は視界が無いので、醜く逃げて、膝をつきながら剣を構えた。
シグルズの首の怪我は致命傷だ。そのまま放っておけば死ぬ。
だが、それまでに僕を殺すことは可能だ。
振り上げた音がした。
僕は音がするほうへ斬り上げた。
風が交錯して、僕は圧し掛かられて二人で地面に倒れた。
血を拭い、何が起きたか見ると、シグルズは失血死で死んで、最後の一振りで倒れ掛かったようだ。鳴子の刃は僕の額に弱々しくあたって、触れた部分から血が流れ落ちた。
あと少しで、頭を割られるところだった。
「バイバイ。魔王軍の勇者」
ぱちぱちと、拍手をする音が聞こえた。魔女がデッキブラシに乗って飛んでいた。
「魔女、見ていたの? 死ぬかと思ったのに助けてくれないんだもんなぁ」
「空気ぐらいは読むよ……。彼も満足だっただろう。本当の実力だったら、勝利をしていた。顔見たか?」
シグルズは少年のような笑顔だった。
「ところで、イブリースを見なかった?」
イブリースと言えば、魔王の短槍か召喚獣のことだ。
「魔王が最後に召喚してしまったんだが、ここに来ていないとなると、やはり核に向ったか。遺跡は核を使えば操縦できるけど、おそらくイブリースは足掻きに行ったな。イブリースが核に辿り着くより早く、核に辿り着くぞ。さあ、後ろに乗れ、デュラン」
僕はゆっくりと下りてくる魔女に手を伸ばし――魔女のデッキブラシに石に当たり吹っ飛んだ。「あーれー」魔女のデッキブラシが真っ二つになり、空を飛ぶ制御が出来ないようだ。
「あれ? あれあれ? やばい、操作できない! あー、やばい! うわー! こんなフェードアウトの仕方はいやや!」魔女が真っ二つになったデッキブラシを両手で持ち、何とか飛んでいたが落ちそうだった。
「デュラン! 核へ行け! 場所は、島の真ん中だ!」
えー、指示が適当すぎる。
僕は常世と鳴子を担いだ。一番最初にシグルズと会った時に音魔法を使って逃げていた。島が墜落する前に外へ出て、魔法を使えば――魔力が尽きていた。
まずい――。
「魔女、脱出どうしようか……」
島が急に向きを変えて、島の外の景色が変わった。
魔女は辺りを見渡して、「イブリースが核に辿り着いたな! やつは近くの街に島を落とす気だ。くそ……」頭を抱えて、「ここから北へ行けば、大きな湖がある。そこに落とせばこれ以上人は死ななくてすむ。核を操ればどうにかなるはずだ」
魔女は島の速度に追いつけなくなってきた。
「核を操作すればいいんだね」
どうやって? あと脱出方法を。
「そうだ。核の部屋なら墜落しても潰れることはない、だから安心して操縦――」
魔女は崩れた土砂に飛ばされて点になった。
ふらふら動いているので生きていると思う。
「場所の指示が適当なんだもんなぁ」
僕は妖しそうな場所へ向けて走り、しばらく迷ったが、場所の検討がついた。
「あああがががっ!」
女の狂ったように絶叫する声だ。声のするほうへ、走り、走り、眼の端に小さな墓を見つけた。随分と古いようで、名前すら読めなかった。墓の横を通り、黒く輝く核を見つけた。
部屋に入ったとたんに、核の部屋は一変した。おそらく、島の周りの景色なのだろう。土の壁が透き通り、全ての視界が開けた。
核が女の声で狂ったような声をあげていて、それに溶け込もうと漆黒のイブリースが体半分を沈めていた。
僕は二刀流になりイブリースを斬った。手応えはあったが、すぐに反撃の電気を食らって部屋の壁まで吹き飛んだ。
産毛が燃えた臭いが漂った。
シグルズと戦った後の体では、非常にきつい一撃だった。
どうやって操縦すれば――。
核はイブリースに侵食されて絶叫している。
引き剥がすと良さそうだ。僕は電気を避け、核とイブリースに組み付き、両手で引き剥がそうとした。すると、核に触れていた手が沈んだ。抜き取ろうとしても、どんどん沈んでいく、まるで消化されているようだ。
ついに頭部が核と一緒になった。
すると、思考が混乱したが徐々に鮮明になった。核の錯乱が止まり、僕は核と一緒にイブリースの精神と対面することができた。おそらく勝利したのだろう。島は湖に墜落した。そこまでは覚えている。
その後、意識が混濁した。
もしかしたら存在すら消えていたのかも知れない。
無になったのかもしれない。
子どもの泣き声がした。
「ままー! ままー!」
誰だ?
僕は核に取り込まれていた。だが、目の前には少女とイブリースのような黒い影がいた。いや、イブリースなのか? よく分からない魔物がいた。
僕は助けようとしたが、核に吸収されていたので、何もできなかった。
が――。
「だ、誰?」少女が泣きながら辺りを見ていた。
僕の声なき声が届いたようだ。
「誰でもいいから――助けてぇ!」
僕は外へ出ていた。何故? と考える前に、魔物の首を絞めて、その場で投げた。魔物は見た目の異常さに比べて弱く、悲鳴をあげて逃げた。
「出れた?」
僕は裸だった。それに力も驚くほど漲った。もしかしたら核の力が体内に満ちているのかも知れなかった。
少女を見ると、死体になった母親にすがり付いて泣いていた。
「大丈夫?」
頭を横に振った。
「君の名前は?」
返事がないとは思ったが、聞かずにはいられなかった――だって。
「……ベロニカ=クンツ」
少女の頃の魔女だった。




