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魔王がイブリースを立てて、突如攻撃を止めた。
「ところで、聞きたかったことがあったんだが……お前、勇者と一緒に俺を殺したときに泣いていたよな。何でだ?」
魔女が突如攻撃を止めた魔王に呆れながら、火炎弾を掌から放った。魔王は「攻撃してくんのかよ?」と顔をしかめたが、難なくイブリースで叩き落した。
「なんとなくわかるんじゃないの?」
「まーな」
「だったら聞く必要ないんじゃないの?」
「言えよ」
「……私は魔族がどういう理由で迫害されたか知っている。そしてお前が魔王になった理由も、たしかにやり方は間違っていたかも知れないが、宝石のように輝く夢を信じて、追いかけていたお前たちが羨ましかっただけだ。私には何も無いからな」
私には何も無い。相手を屈服させる力しかない。世界の秩序を乱す連中を悪として戦ってきたが、敵にも親も子も恋人も悲しい事も嬉しい事も、私と均等にあった。だが、彼らは私には無い物があった。渇望しても絶対得られないと笑われるような夢と信念だった。
それに気付いた時に、呆然としてしまった。
私は木の洞のように中身が無かった。
だが――羨むような相手だからと言って、それが何だと言うのだ。
「俺たちは――いや、俺は負けない。俺の歩いてきた道には何千、何万、何十万の死体で築かれ、これから歩いていく道にはそいつらの夢で舗装されている。俺が背負っているのは一人の命ではない、絶対に負けるわけにはいかない」
魔王はイブリースを突き、私はそれに反応して避けた。
「私が――勝つ」私は土を椅子にして、どっかりと腰を降ろした。「私は秩序を好む。だから、お前たちの障壁となる。魔王――私は他人の命を背負っているつもりは無い。だから、ただ一人の人間だ。安住の地が欲しければ、まず私に絶対死を与えてからにするんだね」
魔王は私が腰掛けたのにめん食らっていた。
「ところで――私は何故、魔女か分かるか? それは、私が本当に幼い頃に、ここの遺跡の核に力を授かったからだよ。ところでだ。反魂の魔法……って何処から得た力だ?」
「……まさか、使えないではなく、使っていなかったのか」
「その通りだ。こんな魔法が知られてしまえば、不老不死を狙う連中が増えるからねぇ。そこでだ。反則技を使われたから、こちらも反則技を使ったよ。召喚術……魔女の騎士。悪いな、助けてくれ」
そこには、全盛期は過ぎ、復活も不完全な『勇者』がいた。
魔王に戦慄が走った。魔王を殺したのは勇者だからだ。これほどの天敵はいないであろう。
「初めて反魂の魔法を使ったから、勇者の魔方陣がどうなるかと思ったけど、復活したら魔方陣も復活したよ。さすがは魔女の騎士だ。さらに――」私は意を決して、短刀を左太腿に刺した。「……魔女の騎士は、魔女の危機に力を発揮する。二人とも――かなりの力を出せるはずだ」
勇者は喋らないが、眼光だけは魔王を見つめていた。勇者は魔王を倒してから、しばらくして病で死んでしまった。その為、全盛期で死んだ魔王より、力は弱いかもしれないが、私と二人で力を合わせれば十分に勝機はある。
「自傷までするとは、いかれた女だな」
「おいおい、私は『魔の女』だぞ。『魔の王』が引くなよ。つれないなぁ」
「ふう……まあ、いい……召喚術――イブリース!」
漆黒の影が現れ、全身を帯電させている。勇者の登場にイブリースは興奮しきっており、一目散に勇者に飛び掛り、暴れまわる乱戦を始めた。
「しまった! 2対2になるなら、自傷した意味無かった! くそー、魔王と勇者の一騎打ちを演出してやったのに無粋め」
勇者に魔王を退治させようとしたから、パワーアップさせようとしたのに……。
「嘘つき! すげー痛いだろ!」
「知るか! 馬鹿!」
それから、再び乱戦が始まった。時々、攻撃相手を交代して、撹乱させつつ戦い、私は魔王を追い詰めていた。しょせんは、不完全な魔王だ。
終幕を迎えようとしている。
イブリースは魔王が弱るに連れて動きが悪くなっていた。そのうち、勇者に圧倒され始めて、とうとう短槍の中へ戻ってしまった。魔王は魔法を食らった痛みで体が弱り、短槍でなんとか体を支えていた。当然、私も雷魔法をひたすら受けていたので負傷していたが、魔王ほどではなかった。
「終わりだ」
勇者に魔法で指示をした。
勇者が魔王を掴みかかり――転瞬、魔王はイブリースを短く持ち、勇者の脇をすり抜けながら、切り払った。勇者は一文字に真っ二つにされた。だが、魔王は油断していた。不完全であろうと勇者は勇者だ。決して、最後まで諦めなかった。上半分の腕が、魔王の組み付き締め上げ、片方の腕が腹を貫いた。魔王は勝利を掴みかけていただけあり、刺されたのを信じられないようだった。復活した勇者は死んだが、再び魔王を殺した男として歴史に名を刻んだ。
「終わっていない……まだ」
魔王はイブリースを杖代わりに立ち上がった。
「まだ……」
決着はついている。不完全な勇者の腕に貫かれたと言うことは、魔王は肉体が維持できないほど弱っていると言うことだ。
「王は……よりよき世界を作るためにいる――イブリース!」
「なっ」
魔王は体力魔力全てを使い、イブリースを再び召喚した。
「俺たちの怒りを知れ……」
魔王は消滅した。全てを注ぎ込まれたイブリースの力はいままでとは桁違いだった。魔族の夢が怒りへと変わり『闇』属性であるイブリースの真の力が解き放たれたのだろう。
私は殺されることを確信して――眼を瞑ったのが間違いだった。イブリースは消えていた。だが、島から離れていないのは気配で分かった。
「まさか……核に向ったか」
私は空を飛ぼうとして、星が降り注がず島の高度が下がっていることを気付いた。




