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私とコロネは赤龍の上で、レスターの魔道銃による攻撃にさらされていた。
以前は赤龍からすぐに逃げたレスターだが、一歩も引こうとはしなかった。
両手で構えなくても、片腕だけで銃撃、銃を噛み、再装填、赤龍が逃げながら放つ火炎弾も難なく避けていた。
島は飛び続けて、赤龍は飛びながら、銃弾による攻撃を避けている。一方のレスターは流星による地震が起きて足元が悪いも、地面の上に立っていることもあり有利だった。
「俺が行くよ」コロネが全身から毛を生やして、獣化して唸った。「あいつは、洞窟で自殺したいと懇願するまでうんたらかんたら言っていたから……後悔させてやる」
おそらくレスターはそれほど強くは無い、それは魔王軍の中で比較的にはという意味だ。だが、レスターは私をさらい、商人ハックの家では虐殺を行った。残虐性はあるが、兄のシグルズとは違って状況を判断する力はある。危険な相手なのはかわらなかった。
コロネには荷が……。
「良くぞ言った。さすがは狼王ロゴの血筋だ」赤龍が煽った。「だが、お前の実力ではせいぜい相手をかく乱させることだけだ。決して、決着をつけようとはするなよ。ワシは火炎弾でやつを狙う」
「うん!」
「私も……戦う」
もう我慢ができなかった。私も戦いたかった。
「駄目だ。お前は王女なのだぞ」
ち、違う。
私は、デュランのものに……。
だから、私だって戦えるはず……。
「お前にまで何かがあったら、誰があの国を護るのだ! 良いか! この世界には色々な利益が存在する。そして、人はその利益を独占しようとする。利益とは殆どが形が無いものだが、それは有限なんだ。お前が国を支配しなければ、火事場泥棒のように利益を貪ろうとする愚か者がいくつも現れる。それで国が千切れるなら……魔王に国をやったほうがまだましだ! だから、お前は生きなければならない」
「ジニーお姉ちゃん……大丈夫だから、だからね……」
コロネは続けてそう言い、赤龍は島に体当たりするように近づいて、コロネは島へ飛び移った。
「来たのは、カワイコちゃんか。勿体無いな、あと数年生きられれば女になれたのに」
左腕が無いのが不気味だ。何があったか知らないが、右腕だけの相手なら、多少なりとも渡り合えるだろう。だが赤龍の上に乗っていたときの動きを見ると油断すると殺されそうだ。
島に星が落ち、何度も、何度も揺れている。
「……お前たちは何でこんな酷いことをしたんだ! 何万人も死んだぞ」
どうしても聞かずにはいられなかった。
「それは、剣で殺すのと変わりはない。俺たちは俺たちの目指すものに辿り着くのに最も良い効率だと思った殺人手段を選択したにすぎない。それ以外に理由は無い」
「こ、後悔も無いのか!」
その時、赤龍の火炎弾が横から飛んできたので、レスターは火炎弾を飛んで避けた。
「今は必要ない」
火、水、電と続けて発射してきて、コロネは避けるので精一杯だった。レスターの装填も素早く近づいても、銃弾で退かされる。
赤龍の上にいるジニーと目が合った。
一緒に旅を続けて生まれた、言葉の要らない会話だった。
レスターは銃を撃ちつくし、超高速の装填を行った。
銃は六発入るようだ。
一歩、間合いを詰めて、後は突進した。
レスターの顔色が変わったが、少し笑った。俺が避けられる距離を遥かにつめて攻撃しようとしていたからだ。その後に、火炎弾が来るのも予測していたようで、装填しながら避けていた。
辺りに火が舞い、足元の地面にひびがはいった。
これはお互い予測していなかった。
お互いが体勢を崩して、それでも体が動いた。
足場が悪いながら、最速で近づいた。
レスターの装填は早い、すでに銃口を向けている。
「アイ=ドール! 行け!」
ジニーが島にアイ=ドールを召喚した。
俺の前方にアイ=ドールが現れて、魔法を唱えて、島の大地から岩を浮かび上がらせて盾とした。レスターは二発撃ち、岩の壁を弾いたようだ。
「アイ=ドール、偉い?」
「偉いし、可愛いよ。ただ、もう少し手伝って」
俺は岩の壁の上に乗り飛んだ。
レスターの銃口からさらに二発発射された。岩が再び身を護ってくれた。
俺の爪がレスターの右肩を斬り、血が舞った。だが、爪はウェアウルフにとって最強の武器ではない、本来なら牙で狙いたいところだが、赤龍から忠告もあり、俺の実力でも不可能だったので止めた。レスターは銃床で俺の腹を殴り、続けて蹴りをいれた。
「じゃあな。カワイコちゃ――」
レスターの周りが明るくなった。火炎弾だ。俺の傍らにアイ=ドールがやって来て岩で球体を形成して、中に俺たちを入れた。岩の向こうから、爆音が聞こえた。
まともに火炎弾を食らえば、レスターの命も尽きただろう。
「あら? アイ=ドール、衝撃的な出来事を言うよ。土砂崩れ起きたよ」
「……え?」
「魔法解いてみる?」
岩を解くと土に囲まれていて、生き埋めとなっていた。そして、解いた途端に酷い臭いがした。それはレスターが焼けた匂いだった。レスターは火炎弾を避けたが、焼かれたようだ。だが、土に埋まったため、消火されていたため、何とか生きているようだ。
レスターと眼が合った。
「……アホだな。味方ごと生き埋めとは」
「事故だ! 事故! もしも、アホだとしてもそれは赤龍!」
「アイ=ドール、最終戦なのにかっこ悪くてガッカリ」
「おい、これもっていろ」
レスターが魔道銃を渡した。
……何かあくどい事でも考えているのだろうか。
「ちょっと待っていろ。カワイコちゃん」
レスターが右手でごそごそと何かを探していた。
「俺の名前はコロネだ」
「ああ、そうか……これだ」
レスターは一つの弾を取り出した。
「魔道銃の尻をこっちに向けろ」
その通りにすると、レスターは弾を入れた。
「おい、返せ」
……こいつ本気なのだろうか。
「やだ……」
レスターの右手が魔道銃をつかんだので、離さないように頑張ったが、負けた。
「おい、カワイコちゃん。大人の言うことは聞くもんだぜ」
レスターは俺に銃口を向けて、鼻で笑って上へ向けて撃った。光が頭上に覆いかぶさった土を吹き飛ばした。それは数万人を殺したディエス・イレと同じ光だった。
レスターは右腕だけで自分の体を引きずり出した。
俺も負けずに体を引きずり出して、レスターを噛み付こうとしたが――。
右脇腹から血が流れていた。土で埋まっていて気付かなかったが、先ほどの火炎弾で火傷以外にも負傷したようだ。石がはじけて脇腹を抉ったような痕だ。
「致命傷だ。もうすぐ死ぬ」
「言われなくても分かっている」
レスターは腰をつけて、銃を見つめていた。
「星が……落ちなくなったな」
レスターの言うとおりだった。クーに何かがあったのだろうか。
「殺すも良い、行くのも良い、勝手にしろ」
レスターは右手で脇腹を押さえながら俺を見ていた。
「子どもにも負けるとはな……」
俺は迷いながらも、クーの元へ行くことにした。
次は同時間帯の魔女と魔王




