表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/95

37

 魔女は絶句しているジニーを尻目に、赤龍と話し始めた。魔女なりの気遣いだろう。


「赤龍はどれくらい動ける?」


「もう、昔ほどは無理だな。だが、魔王以外なら大丈夫だ。さっきもわき腹が痛くなった。体重落とさないとな」


「なら、私が魔王か。上等だね。こっちも温まってきたところだ。勇者と一緒に共闘して以来、ほとんど本気を出していなかったけど、ここ最近では一番絶好調だ」


 それを遮るようにジニーの声が、


「下に、下に降りて……」


 ジニーの言葉に、魔女が何かを言おうとしたが、ジニーの次の言葉を待った。


「いいえ、すみません。もう、無理ですよね。行きましょう」


 下にいる人間は殆ど蒸発した。遠くの兵士たちは何千人か残っているが、ジニーの忠告を聞いて逃げた兵士たちだった。


「謝ることはない」魔女がジニーに言った。「それが普通なんだよ。おかしいのは私――達だ。だから、私達は戦争屋なんだ。そして、こういう時に私は必要とされる。そして、終われば去るしかない。だからそれで良いんだよ――女王陛下」


 女王陛下――ディエス・イレで王族は根こそぎ死んだ。そうなると残っているのは、ジニーしかいなかった。


 突如、頭上が光り輝き、雷が落ちてきた。赤龍も反応できなかったが、魔女が雷魔法を放って相殺した。島の上に魔王がイブリースを片手に睨みつけていた。初めてみた時よりも白髪が伸びて、筋肉も盛り上がり、精悍な印象に溢れている。より完全復活へと近づいているのだろう。


「赤龍……衰えたか?」


「何をほざく……少しだけ肥っただけだ!」赤龍は口を大きく開き、火炎弾を発射させた。島に直撃すると、大きく揺れて、魔王が舌打ちをしたように見えた。


「このざまか。脂肪を燃やしてから来るんだな」


「魔王如きがほざきおって」


 魔女と赤龍は移動しながら話した。


「魔王は時間稼ぎをしているようね。次のディエス・イレを放つまで私たちを遠ざけようとしているわ」


コアを壊して、墜落させるか、動かしてどうにかするか」


 墜落させたら、下に人がいたら死んでしまう。


 分かっていることだが――そこまで気を使えるほど余裕は無かった。


「赤龍はジニーと獣人の嬢ちゃんを乗せて、迎撃してくる魔王軍を蹴散らしつつ、火炎弾で島を削って――さて、魔王の騎士は何をやるか分かるかな?」


 分かっているだろう?


 ああ、分かっている。


 僕がやるべきことだ。


「分かっているよ。赤龍、僕をあの島に乗せてくれ」


 島の上には魔王だけいるように見えるが、誰が出て来るかわからない、特にシグルズとレスターは必ず出てくるだろう。


 シグルズ――あいつはジニーを救出した時に、助けてくれた。


 必ず、現れて、一対一を仕掛けてくるはずだ。


「駄目だよ。あの島に行ったら……」


「危険は承知、それに世界を救うに比べたら僕の命なんて軽い……」


「そんなこと言わないでください! 馬鹿なことを」


「冗談ですよ」


 魔女が意外そうな顔をして、見たことの無い変な顔つきになった。


「どいつもこいつも、育てたやった恩を忘れて、他の女のところへ行きたがる」


 その後、ちらりとコロネを見たが、何も言わなかった。


「戻ってきたら、返事をしますから――」


 僕がそう言うと、納得はしていないが頷いてくれた。


 魔女と赤龍は僕たちの目が回るくらいの軌道で飛び、一気に島の上まで来た。魔女は魔王と戦闘を開始して、周囲の土を吹き飛ばしながら、次元の違う戦いを始めた。僕が赤龍から飛び出そうとすると、ジニーに手首をつかまれて、


 唇を交わした。


「待っています」


「ああ――」


 僕は魔王とは離れたところで降りて、唇の感触に感動した。


 僕がやることは分かっている。


 その為に、地球から来たかは分からないけど、僕が此処に来たのには意味があった。


「落ちろ……」


 僕はヘルメスをかざして、大空へ向けて突き立てた。僕が初めて使う魔法だが、一度世界を救ったことのある勇者の剣なら、僕の弱さ強さにかかわらず力を発揮するだろう。


「『星』よ……周囲一帯を滅ぼせ!」


 ヘルメスから光が発射され青空に消えた。


 やがて、空から星が降り注いだ。火薬が破裂したような音が断続的に続いて、島に数十発当たって、地震が起きたように震えた。


「まだだ……。『星』よ。落ちろぉ!」


 再び、流星が燃えながら島に衝突した。爆風が僕の体を揺らしたが、僕は何度も何度も『星』を唱えて、島をどんどん削った。





「……勇者の剣、いやヘルメスか。予想外だったな」

 魔王がイブリースを地面につきたてて、苦しそうに息をした。コアを操るのに、魔力を消費しているためか、槍術を多用して魔女と戦っていた。


「自分の作った剣だ。因果応報だな」


「因果……応報……」魔王は引きつったように笑った。「馬鹿馬鹿しい。そんなくそったれなものが、どうしたと言うのだ。俺は全てを踏み潰して……俺たちの安住の地を手に入れる。権力は滅ぼした……あと一歩なんだ」




 赤龍は火炎弾を放ちながら、魔道銃の攻撃を避けていた。左腕の無いレスターがたんたんと赤龍へ向けて撃って来ていた。


「デュラン……!」


 デュランが星を降り注ぐために、何度も何度も星を落としていた。




 空飛ぶ島に降り注ぐ流星、遠めで見た人間には最後の日のように見えた。 短くも、運命の交錯する一日だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ