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 義弟のラインハルトは父親だけが同じだった。序列で言えば、私より上だけど、優秀かどうか考えれば、翼竜を召喚できる私のほうが上だろう。


 ダークエルフだから呼べるわけではない、いままでの王位継承者はすべて召喚できた。彼は昔から不真面目で、次の王になるのは自分だと言う自負があった。


 だから、何もしなかった。


 普通ならそうはならない、だからこちらが有利だと過信した。


 コロネと一緒に部屋に通されて、しばらくすると外で兵士たちが騒ぎ出した。


 もしかしたらデュランかも知れない、そうなると何かあったとしてもデュランの加勢は望めないことになる。私はコロネにそう告げると、コロネは緊張で体を固くした。


 その後、一時間ほど待たされただろう。


 義弟のラインハルトが部屋の中に入ってきた。

「姉さま。どうしてここにこられたんですか?」


「忘れましたか? 私は弟王ヴィルヘルムの居城へ行っておりました。この兵の展開から考えると、どのような状況か分かると思うのですが」


 ラインハルトは静かに頷いた。


「ええ、私たちはヴィルヘルムの反乱を知っています」


 やはりそうだった。国王――お父様たちは知っていたのだ。


「なぜ兵を向けないのですか。今なら先制攻撃で」


「大義名分がありません」


 大義名分――それを聞いたときに、私の体に電撃が走った。両足の力が抜けて、コロネが近くにいなければ倒れてしまうところだった。


「お分かりになりましたか?」


「嘘だ」


「いいえ、義姉さまの思っているとおりです。あなたは捨てられたのです」


 私とお母様は反乱の兆しが見えるヴィルヘルムに送り込まれた。考えてみれば外遊の理由も適当なものだった。お母様を労わってくれた国王が各地を転々と旅行されてはと、一番最初にヴィルヘルムのところへ寄った。


 考えてみれば護衛の兵も少なかった。


 国王の長女たる私、しかしダークエルフという血の悪さ。


 国王にとって私は不必要だが、使える存在だったということだ。


 大義名分を作るために、私は捨てられた。だから私はここに居てはならないのだろう。


 ラインハルトはいきなりコロネを蹴りつけて、男の力で私に掴みかかってきた。愚弟とはいえ、男だ。私は銀髪を捕まれて引っ張られた。


「父上が色に狂うのも分かる。ダークエルフと言うのは美しい、だが根底に淫靡さがある。それが男を狂わせるのだろうな」


 ラインハルトは私の耳を舐めた。


 私は怒りが沸点を超えて、気付いた時には黒曜石の短刀を振った。デュランがくれた短刀だ。握り締めると、遠くにいる彼から力が流れ込んでくるようだった。


 私はラインハルトを斬るつもりだったが届かなかったので、意を決して銀髪を切った。


 子供のころから梳き、伸ばし、手入れを怠らなかった髪の毛だ。売れば宝石以上の価値のあると言われた美しい髪の毛は黒曜石にざっくり切られた。私は力から解放されて、踵を返して、ラインハルトが剣を抜く前に体勢を整えた。


「愚か者め。私に勝てると思ったか」


「『炎蛇』」ラインハルトが唱えて、部屋の中を紐の様な炎が舞い踊った。ラインハルトの持っている剣は『溶岩の剣』だ。『火』属性の魔法が使える。


「アイ=ドール!」

 アイ=ドールが服の中から飛び出して、床の石で私を包み込んだ。熱さも感じずに、炎蛇は消え去った。その間に、コロネが獣化しており、勝負があった。

「パラライズ=アイ!」


 ラインハルトは痺れて動けなくなり、コロネの足がラインハルトの頭を踏みつけていた。


「次期国王の頭を踏むとは……」


「床かと思ったよ」


「問いただす……私は信用しない。お父様に会う……」

 ラインハルトの言うことなど信用できるか、この馬鹿は馬鹿だ。私は、お父様が私を捨てたなどと思わない、子どもの時に何度も何度も「美しい髪の毛」と言って指ですいてくれたお父様は優しかった。


 私がダークエルフでも優しかった。


「ラインハルト様」


 私はコロネをどかして、ラインハルトを後ろから首を絞めて、黒曜石の短刀を首に突きつけた。

 ラインハルトの兵士たちが騒ぎを聞きつけて、部屋の中に入ってきた。


「動くな。ラインハルトの命が欲しいなら」


「言う通りにしろ。これは姉さまに変身した逆賊だ。姉さまほどに優しさは無い」


 舌打ちをしたい思いだった。


 私はラインハルトを押して、兵士たちの前を通った。

 そのまま外へ出て兵士たちの馬を見た。


「馬車を用意しろ。早く!」


「後悔するぞ」


「行動をしなければ、もっと後悔する」


 私とコロネは馬車に乗り、二人で駆けていたが、途中でコロネが、

「王都に行くなら、デュランに知らせたほうがいいよ」と言っているのに気付いた。


 私の脳は裏切られたことでいっぱいで、コロネの声すら耳に入らなかった。


 コロネがデュランを呼びに行ったのも分からなかった。


 私はもう冷静ではなかった。

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