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 ジニーたちが兵士たちと話しこみ、兵士たちは深々と頭を下げた。


 どうやら話が通ったようだ。かたわらにいるコロネは緊張しているが、最初にあったときとは打って変わって女の子にしか見えない、これで余計な醜聞が流れることは無いだろう。


 コロネが単純魔法だけでも使えるようになって良かった。


 もしも、ジニーと僕の二人旅のままだったら、僕は醜聞を覚悟でついて行っただろう。と言うのも、今回の騒動が王族内での争いだからだ。国王の息子と言えど権力争いに巻き込まれれば、実の父親でも裏切るであろう。


 もしかしたら、ここは最悪の死地なのかもしれない。


 暴力沙汰が起きる可能性がある。


 だからこそのコロネだった。コロネはジニーのことを心底愛している。もしも彼女が何かに巻き込まれたとしたら、命をかけてでも抵抗するだろう。獣化すれば子供と言えど、押さえつけるのには時間がかかるはずだ。


 その隙に、僕が助けられる機会もある。


 僕にはそういう計算があった。


 コロネを利用している――悪いとは思うが、後悔はしない。後悔が始まったら、足元を掬われてしまう。


 新しく買った『夜のオカリナ』を手にした。


 音魔法の名手であるシグルズが使った手だが、見よう見まねで使うことにした。


『音波探査』

 音波を発射して、遠くにいる二人に当てた。建物の影で見えなくなったが、並んで歩く二人の動きは繰り返しの音波探査で捉えることができた。やがて感知できなくなった。おそらく建物の中に入ったのだろう。その感覚を忘れないように記憶に刻み込んで、暗くなるのを待った。


 暗くなるのを待ってから、街を囲んでいる塀と警戒している兵士の配置を確認しながら隙を窺った。


 心臓が止まる思いだった。


 兵士が死んでいる。


 僕は走って近づき、傷を確認した。


 牙だ。何度も隠れながら走った。その度に、兵士の死体があり、傷跡は全て牙だった。


 何者かが殺したのだろう。


 当然、見当はついた。


 魔王の配下だ。


 そして、獣人だろう。


 僕は音波探査で確認した建物まで近づいた。大きな屋敷だ。恐らく街一番の金持ちの家を、弟君が没収して拠点としているのだろう。


 僕は建物の窓から中を確認して、しばらくしてジニーとコロネを見つけた。大きな部屋だった。二人は手持ち無沙汰で調度品を眺めていた。どうやら待遇はいいようだ。夜風に体温を奪われながら待ちに待ったが、弟君はやって来なかった。


 代わりにやってきたのは腐敗臭だった。


 僕は目を見開き、周囲を確認したが、目視では確認できなかった。だが、臭いは鼻を刺激している。風の向き、強さを考慮して、しばらく考えていたが検討がついた。


 屋根の上だ。


 外壁の取っ掛かりに手と足を引っ掛けてよじ登った。


「ここに来なければ相手をしなかったものを」


 僕はその台詞に屋根に上ったことを後悔したが、気にするのを止めた。


 相手は暗闇で見えづらいが、コロネと一緒の尻尾なのでウェアウルフだろう。四足で近づいてきて、全身が見えた時に絶句してしまった。


 全身が腐れ落ち、溶けたように崩れていた。


「残念ながら復活が不完全でな。相手にできるほど力が戻ってきていないんだ」


 ウェアウルフは残念そうに唸り、両手を舐めた。


「ただの兵士なら相手にならないが、シグルズとレスターを退けるほどの力を持つなら、こちらの方が非常に不利だ……だが獣人の尊厳プライドをくすぐる相手だな。お前に勝利すれば、少なくとも大手柄だ。戦いたいなぁ。戦いたいなぁ」


 無音で近寄ってきた。


「お前はなんでここに来たんだ?」


 すくなくともシグルズとレスターのように、積極的にこちらを攻撃はしてこなかった。今はやる気みたいだが、攻撃と言うよりはジニーの監視をしていたように見える。


「腐って耳が遠くなってな」


 何故か、しらをきっていた。


「ふん、まあいいや。僕の名前は魔女の騎士のクー=デュラン。お前は?」


「狼王ロゴの眷属、ナハトマだ」


 勝負は一瞬で決まるはずだった。お互いに音を立てたくない状況だったため、一瞬でケリをつけるつもりで動いた。


 だが無音に気を配りすぎて攻撃は鈍くなった。


 爪とヘルメスが衝突して、音が鳴り響いた。


 ナハトマの体は崩れた。あまりに脆く、昔の強さすら垣間見えないのは無情だった。


 ヘルメスは首を切断して、ナハトマは庭に落ちて死んだ。


 警戒している兵士たちが動く前に僕は逃げ出した。塀に近づいたときに、笛が鳴り響いて、周囲から騒ぎ声が聞こえてきた。次々と飛び越え、隠れながら街の外へ逃げた。残念ながらジニーたちを監視することは出来なくなった。


 だが、その時、僕がいてもいなくても状況は変わらなかっただろう。


 次の日、僕はコロネから夜の出来事を聞くことになった。

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