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村人と一緒に消火に勤しんだ後、魔女の家に女の子を運んで、治療を続けて意識が戻るのを待った。小さな村なので治療師はいない、まあいたとしても下手な治療師より魔女のほうが遥かに優秀なので、どちらにせよ魔女の家に連れてきただろうけど。
そして、次の日。
あの後もう一度覗きに出かけたら、魔女に凸凹にされてしまった。
「冗談なのになぁ」
「女の気持ちになって考えなさい」
と言うわけで、凸凹を治すために、僕は森に『命』のスレイブを探しに出かけることにした。
それに女の子の治療のためもある。魔女は魔法で治療を重ねているけど、魔女の力だって無限ではない、治したぶんだけ疲労する。
微力でもいいから手助けをしたかった。
魔女は僕の恩人だ。
彼女が喜ぶなら、僕は何でもするだろう。
魔女の館を出て、森を散策していき、生命の木を見つけたのは昼だった。登りに登って山頂近くまで来てしまった。少し休みたかったが、魔女が昼飯を待っているかも知れないので、急いで木に昇って木の実を五つ程とった。
とりあえず僕の凸凹を治すか……。
木の実に手をかざして、「お願いします。お願いします」と唱えると、みるみるうちに、木の実から『命』があふれ出して、僕の凸凹は平らになった。そして、残り四つになった木の実を片手に下山した。
魔女の館に戻り、魔女の寝室に入った。
「生命の木の実を取ってきたよ」
魔女は寝室で裸になり、お湯を使って身体を拭いていた。魔女は殆ど寝ていないが疲れたそぶりを見せていなかった。
「人が身体を拭いている時に入ってくるな。入る前に扉をノックしなさい」
申し訳程度に魔女は胸を隠した。昨日の覗き騒動で、魔女は僕に対して男女の礼儀と言うものを教えることにしたと宣言していた。魔女も僕に裸を見られても恥ずかしくないのだが、常識がなっていないのは社会を知らないのと同じだと力説していた。
といっても、僕と魔女はもっと深いところで繋がっている。
なにしろ、僕は魔女の騎士だから……。
僕の背中には契約の証があった。
それは血よりも重いものだ。
「女の子に生命の木の実使ってきて良い?」
「良いけど……身体に触るなよ」
「思春期ですから」
「……デュラン……いつのまにそんなに変態になったんだ」
「五年くらい前かな……」
「五年前って、私がデュランを拾った時からかよ」
魔女がフーンと言った。
「僕の今日一の殺し文句が」――無視された。
「いやいや、ただ変態宣言しただけだぞ」
「まあ、いいや。とりあえず治療してくるよ」
女の子は全身を包帯に巻かれていたが、火傷はそんなに酷くはないようだった。あの特殊なマントが役に立ったのだろう。雷の副次的要素で炎上したわけなので、雷ほどの威力は無かったのだろう。
僕が生命の木の実にお願いをして、実の力を全て搾り出した頃に魔女が部屋の中に入ってきた。
「言い忘れたが、あの翼竜は……実は私が作った召喚獣なんだ」
「えっ?」
どういうこと?
「百年前に、初代国王が赤龍に王権を承認させるために実力を示さなければならなかった。その時に召喚獣として譲ったのが、あの翼竜なんだ」
……百年前。
「自称三十歳」
魔女の表情が固まり、舌を出し笑って誤魔化した。
わー、凄い可愛い……はっ、騙されるところだった!
「百歳もサバをよんでいたの……?」
「だからさ、あの翼竜に乗っているって事は、彼女は王族だ。翼竜は王族専用の召喚獣だからね」
「で、何歳サバよんだの」
「デュランの興味は王族より私の年齢か?」
って……王族?
「この女の子が――」