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 悲しいことに魔女の騎士は、ジニーより馬の騎乗が下手だった。


 こんなんだから蔑称として魔女の騎士が使われるんだな……と悲しんだが、初めて乗る割りには上手く乗りこなせていると、ジニーが誉めてくれた。


 が――尻が痛い。尻が痛いと考えていると、悲しい記憶がよみがえって来るので、なるべく意識を別の方向へ向けた。


 先導するのはジニーとコロネを乗せた馬だ。用意した光苔をランタンに入れて、わずかな光を頼りに進み続けていた。時々雑談をしているようで、嬉しそうに笑いあっていた。


 たぶん――コロネはジニーと離れたくなかったのだろう。ジニーは気付いていないかも知れないが、コロネがジニーに向ける笑顔はとても無邪気だった。種族は違えど、姉妹のように見える。


「クー。なにジロジロ見てんだ!」


 怒られたので、馬を乗りこなすのに集中して、月が空の天辺に浮き上がる頃に、洞窟の入口についた。馬から降りて、光苔を頼りに迷宮の地図を見た。


「確かにそうだね」


 地図には入口としてつかえるものに赤い光が浮き上がっている。何百もある中で、数個しか光がついていなかった。


「もしかして、この入口も動くのかな」


「その可能性は高いですね。迷宮か……いったい何で出来ているんだろうか?」


「わくわくするね」コロネは能天気だった。


 迷宮。時間が経つたびに変化すると言うことは生きているのだろか、それとも『そういう自然現象』なのだろうか、どちらにしろ変化することは変わらない、だが心構えは代わらないけど真実を追究したい気分にかられた。


 赤龍は真実を知っていそうだが、聞くとしても別の機会になるだろう。今回は会う必要も無いし、会ったら何が起きるかわからなかった。


「どうして迷宮なんてなっているんですかね? 魔法とかですかね」


「迷宮にする魔法って属性すら分かりませんね」


「じゃあ、解明されていない魔法とか」


「その可能性はありますね」


「魔法って言うより生きている感じだね」コロネがポッと言った。


「こんな形状の生き物はいないでしょー」


「それもそっかー」

 ジニーとコロネは笑いあっていたが、なんか鋭いことを言っている気もした。



「強行軍で行きましょう。追跡者とは追いかけっこの勝負になりますからね」


 レスターも迷宮の地図を持っている。迷宮内で出会う可能性は大きかった。もしかしたら時間差があれば迷宮が変化して巻くことも出来るかも知れないが、淡い期待に縋ってはいられなかった。


「と言うわけで行きますよ」


 馬は洞窟内では歩きにくいので、短い出会いに別れを告げた。


 迷宮へと僕たち三人は侵入した。


 コロネが生き物といったせいで、腸内の中に入ったような気持ち悪い気分になった。流石のコロネも言葉少なく、湿って息苦しい洞窟を黙って歩いた。


 散々歩いて――もう歩けないほど疲れた。この前の教訓で時々、ヘルメスを置いて、音波探査の確認を行ったが、シグルズはまだ近づいてきていないようだった。


 コロネは既に寝入っていた。


「寝ていいですよ。私が起きていますから」


 ジニーは地図を見ながら僕を気遣った。


「ジニーが寝てください……と言いたい所ですが、寝かしてもらいます」


 僕は手枕にして横になった。


「貸しましょうか?」


 ジニーがポンポンと太ももを叩いた。


「借りたいところですが、不敬になりますので」

 僕は冗談で言ったつもりだったが、


「そんなこと言わないでくださいよ」ジニーは哀しい表情をして、「私の事を家族以外でジニーと呼んでくれたのは、あなたたちなんですから……」


「……じゃあ、借りていいですか」


 なんと柔らかい太ももだ。

 布の奥の肌理の細かさすら伝わるようだ。

 スリスリしたい……。

 僕は幸せになりながら寝てしまった。


「……デュラン、何かの気配がします」


 僕が起きると、迷宮が変化していた。


 地面がどんどん傾いていく、コロネも眼を覚ましたが、その場から動けなかった。どんどん傾いて、僕たち三人は転がった。僕はジニーを抱きしめて、次にコロネの服を引っ張った。ヘルメスを操作して、銅貨を全身にまとって落下の衝撃に耐えた。


 銅貨を元に戻すと、伝説が目の前にいた。


「懐かしい匂いにつられて呼んでみれば――見知らぬものたちか」


 赤龍だ。大きかった。洞窟の空洞も大きく、上を見上げると闇夜が見えた。館の大きさと言ってもいいほどに大きかった。人間など爪一本で串刺に出来るだろう。鱗は炎が揺らぐように色を変え、眼の色はとても美しく、財宝が体の下敷きになっていた。財宝が少しでもなくなるとわかると言う龍の寝床だ。聞いたことはあるが、見るとは思わなかった。


 まずい……。殺されるか……?


「三人が三人とも懐かしいとはのぉ。これは夢かな?」


 予想外に好感触だった。

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