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「女の子だったのね。コロネちゃん……」
僕が戦闘を終えて、コロネの家に戻ると、ジニーがコロネに服を与えて、着せ替え人形遊びをしていた。お姫様風の服など飾ってあって――いまは召使風の服を着ていた。
この展開にするなら、コロネが着替えている途中で、僕が覗いてしまうパターンだろ、と余計なことを考えながら、僕は家に入った。
「嫌だよ。こんなちゃんとした服」
「駄目よー。そういう薄着をしていると、どこぞの男に襲われるから」
お姫様が僕を睨んでいた。
なるほど、その着替えは僕対策か。
ジニーは僕のことを変態だと思っているようだが、僕は紳士だ。変態と言う名の紳士だ。はっきり言っておこう。思春期の男の頭の九割はエロで出来ている、と!
彼女の新しい召喚獣アイ=ドールのせいで、僕がコロネを襲ったとでも思っているのだろうか、決してそうではない――たしかに、最初に会ったときはズボンをひん剥こうとしていたが、その後は人命救助しかしていないではないか。
むしろ僕に感謝してほしい、感謝の押し付けでも感謝をして欲しい。
「と、言うのは冗談で――ありがとうございました。デュラン。助けていただきまして。コロネちゃんもお礼を言った? 命を助けてもらったんでしょ」
う、うんと言って、コロネはお辞儀をした。
見ろ、みんな、僕は感謝されるべきなんだ。
「ありがとう。クー」コロネは照れているようだ。「で、でもな……責任を取れって言ったけど、あれは結婚をしてくれって言った意味じゃないからな!」
「…………わたし……邪魔?」ジニーが深刻そうな顔をして迷っていた。
「……」
僕たちは会話がとっ散らかって来たので、とりえず小休止で寝た。
と、言うわけで、残り13日目の朝を迎えた。
「迷宮の地図を作成できる錬成士を探しましょう」
「時間がかかりそうですね……」
そうでもなかった。と言っても、夕方を迎えて、夜に迫りつつそうではあった。
相手のほうから僕を見つけてくれたのだ。
「貴様! 錬成士の造った最高傑作を錆びだらけにしたのか!」
「は、はい?」
「貴様が背負っているその剣だ! 人工物にしてマイスターのど傑作だぞ!」
背の小さい、筋肉質の老人だった。ただ老人と言っても、ドワーフ族だ。
「ああ、勇者の剣のことですか?」
「なにが勇者の剣だ! これは『ヘルメス』という名がついているんだぞ」
へー、そういう名だったんだ。
「それをこんな錆びらせまくりおって……ベロニカはいったいどんな管理をしていたのだ?」
意外なことに魔女の名前が出てきた。
「僕はクー=デュランと言います。あなたの名前は?」
「クー=デュランだと?」
ドワーフはしばらく俯いていた。
が――笑った。
「クーか! ははは!」
超がつくほど大笑いをしていた。
「いやー、久し振りに笑わせてもらった」
ギルと名乗ったドワーフは工場に僕たちを連れてきた。
「そんなにおかしいですか?」
「いやいや……その名前は特別な意味があるんだよ……最初の魔女の騎士と言うことで有名だが、ベロニカにとって初恋の人の名なんだよ。あ――おもしれ」
そんなに面白いか?
「ところで――迷宮の地図ですが……」
「あーあれか。作ってもいいが、三日かかるぞ。それに魔力のある人間の協力が必要だ」
「……三日か。」
今日は取り掛からないだろうから、三日たてば残り九日、迷宮を抜けるのに何日かかるかだが、他に手は無さそうだ。おそらく魔王の配下たちは都市のなかでは攻撃してこないだろう。金属が多くある都市では、彼らにとって不利だからだ。
「あ……材料ねーや。悪い三日で出来ねーわ」
「はあ? 何が足りないんですか?」
「金と」
それは材料ではない。
「白兎だ」
「えっ、兎なら簡単だ」
「違う違う。『服を着た白兎』のことだ。子どもたちを不思議の国に迷い込ませると言う悪い悪い魔物のことだよ」
※服を着た白兎は不思議の国のアリスより




