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 ある日の出来事だった。


 魔女は料理が下手なので、雑用兼魔女の騎士の僕が作った夕食を、魔女と一緒に食べていると、魔女が顔をしかめて耳を澄ましているようだ。


 世界を感じることの出来る魔女には、こういう時がよくある。


 魔女は箒を手に外へ飛び出した。僕も急いで夜道を追いかけていたら、夜空が灯を浮かべたように明るくなっていた。


 夜空に流れ星が――否、それは翼竜ワイバーンだった。翼竜が火だるまのように炎上して、上空を飛んでいた。


「傷から推測するに……雷系の魔法を食らったみたいだね。可哀想に炎上しちゃっているよ。……あれが森に落ちたら山火事になるわね」


「どうするの?」


「風を操って誘導しよう」


 翼竜はわずかに高度を下げながら滑空して、燃えながら足掻いている。


 ここは見渡す限り山だ。樵が作った小さな広場は幾つかあるが、夜中では上空からでも広場を見つけることは難しいだろう。



 魔女はその名の通り魔法に精通している。


 一般人が魔法を使うのにはスレイブが必要だが、魔女はスレイブを介在させなくても魔法を行使することができる。


 だから魔女だ。


 彼女は世界に愛された特別な存在だった。


「風よ……」魔女が呟くと、呼応したように風が巻き上がった。「風のせせらぎ」森を流れていた風が集まり、夜空へと舞い上がった。燃えていた翼竜は僅かに傾き、しばらくすると一気に風に流された。



「村の広場に着陸させる。行くよ」


 魔女が箒に腰をかけ、僕を後ろに乗せた。


 僕は魔女の腰にしがみつくと、一気に空へと飛びだった。



 すぐさま、翼竜の横へとつけると、その背中に誰かがしがみついているのが見えた。


「デュラン、その女の子を掴める?」


「翼竜の背中に乗らないと落ちちゃうよ」


 背中にしがみついているのは女の子だ。燃えているが、黒いマントのようなもので身を隠して、必死に炎から身を守っていた。おそらく魔法で護符された特殊なマントだろう。高価な品なので裕福な家庭の女の子と推測できた。


「風よ……水を巻き上げ」眼下には幾つかの小川はある。魔女はそれを感知して、風を使って僕の周りを水の泡で包んだ。「水泡の盾ってところかな。水量が足りないから泡で我慢して」


 僕は箒から身を乗り出して、翼竜の翼を掴んで、女の子を掴んだ。泡がどんどん蒸発するが魔法の泡は消えることはなかった。


 が、箒から翼竜に移るより、翼竜から箒に移るほうが怖かった。なんせ箒は棒一つである。



「デュラン、早く」


 こ、怖い……。


「は や く せ ん か !」


 自称三十歳の魔女は箒の上で鬼のような形相だった。魔女は美人で、優しいが、怒ると本当に怖かった。


「分かっているけど」


 百歩譲って、女の子を担いで、箒に移るは良いけど……。


 腰掛けるのは難しいから、どうにか跨らないといけないけど……。


 絶対、股間強打するよ……。



 痺れを切らした魔女は腕に水泡をまとい、僕を掴んで、箒の後ろへ引きずり込んだ。



 翼竜ワイバーンが風に乗って村の広場に落ちると、突然の出来事に次々と村人がやって来て、大慌てで桶を持ち集まり、近くの川からバケツリレーをして消火を始めた。


 股間を押さえてうずくまっていた役たたずな僕も、村人に見つかりバケツリレーに参加した。



 その間に、魔女は女の子を手当てした。遠目では詳しくは見えないけど、家の中で服を脱がして軟膏を塗っていた。


「デュラン……」魔女が『音』を操り話しかけてきた。「私には見えているぞ。お前が遠くから裸を覗いているのが……」


「思春期ですから」


「他所の女の子の裸を見るな」


「はーい」


 僕はバケツリレーにもう一度参加した。

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