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夜通し動いても、後々動けなくなるので、僕たちは焦る気持ちを抑えて川の字になって寝た。日頃鍛えているせいか、コロネが夜中にトイレに行ったのに気づいたが、いつまで経っても戻ってこなかった。
「アイ=ドールは見たよ。わんちゃんが外へ出るのを」
ジニーは歩きつかれたのかぐっすりと眠っていた。僕はしばらく考えていたが、壁に鍵がかかっていないので、このまま外に出たら施錠を出来ない、ジニーの肩を揺らして起こした。
ジニーは寝惚け眼で、
「……夜這いですか?」
「……違います」
していいなら、しますけどね。
僕たち二人は装備を整えて、と言っても
クー=デュラン
武器:勇者の剣(鋼・星)
盾:なし
服:綺麗な安物
兜:地毛
足:革靴
装飾品:水脈の鐘(水)
ヴァージニア=ドラクロワ
武器:黒曜石の短刀(石)
盾:なし
服:冒険者の服
兜:宝石ぐらい価値のある銀髪
足:革靴
装飾品:アイ=ドール(石)
と言ったような感じだった。
ちなみに水脈の鐘は今までの旅で地面から水を集めて、飲み水にするのに使っていたが、僕の持ってきた最後のスレイブなので一応持っていくことにした。
家の外へ出ると、喧騒が聞こえた。そちらへ向かうと、貧民街の住民たちが輪になって騒いでいた。僕たちは人を掻き分けて、前に進むと、そこにはコロネを襲った山賊が獣人族のウェアキャットたちと戦っていた。
「がきども! おらっ」
ウェアキャットたちが棍棒で叩かれながらも抵抗していた。
「痛い! くそ、負けるか!」
「おい」僕が戦闘の渦中に入り、一人の山賊へ向けて飛び蹴りをした。山であった時も最初に気絶させた男だった。髭男と禿頭がこっちを指差して、
「あー!」と叫んだ。
「お前、また邪魔を!」
「へっ、今度は手加減しねえからな」
「わ、わたしも手伝います」
ジニーが黒曜石の短刀を抜いた。
中略……。
山賊三人は土下座して謝っていた。
「もほ、へまへん(もう、しません)」
「よろしい」
錆びた剣で叩かれたり、石の連打を食らったりと、憐れな三人であった。
だがウェアキャットたちが、
「もう! 俺たちで倒せるはずだったのに!」どこかで同じ体験をした覚えがある。基本的に獣人は尊厳が高いのであろう。
「……コロネを知らないか?」
「コロネはこいつらのボスと戦っている。俺たち獣人族は受けた屈辱を必ず晴らす」
ウェアキャットはコロネの情報収集を手伝っていたそうだ。コロネは街で情報収集をしている時に、山賊を見つけそうで、酔っ払っている時間帯に襲撃することを計画した。
それで、夜中に戦いに出かけた。
溝川という名称が似合う場所で、コロネは大男と戦っていた。
夜と言うこともあるが、遠くで戦っているので状況は見づらかった。
足元は溝で動きにくそうだが、人型のまま獣化したコロネは、川の両側の壁を蹴って、巧みに戦っている。と言っても、相手もかなりの巧者で体捌きは武人のようだ。だが、武器を持っていなかった。
酒でも飲んでいたのだろう。
コロネは卑怯と呼ばれそうだが、頭を使って戦いを挑んだようだ。
僕たちがいる橋から下りる場所が無かった。
どうするか迷っているうちに決着がついた。
コロネの爪が大男の頭を揺さぶり、大男がカウンターのようにコロネの頭を殴った。大男は壁に吹っ飛び、気絶してしまったようだ。コロネも力尽きたようで、人間の姿に戻り、溝川に浮かんだ。
「たいへん……息が……」
僕は橋の上から飛び降りて、溝川に落ちた。足が痛んだが、溝を掻き分けてコロネの元に辿り着いた。コロネを担ぎ上げて、近くにあった梯子から上に昇った。
脈を計り、呼吸を確認したが停止している。
「こんな馬鹿なことで……」
その時、頭痛が起きた。
この前戦っていたときもそうだったが、地球の記憶だった。
記憶を頼りに、コロネの胸を両手で押した。
1,2,3……と数えて、30回押した。
呼吸を二回入れ、胸を押して、呼吸を入れて、何度も同じことを繰り返したか分からないが、汗をじっとりとかいた頃に、コロネは水を吐き出した。水が戻らないように、横へ向けて吐かせて、もう一度呼吸を入れて、舌で構内の泥をすくって吐き出した。
「はあ……い、生き返った……こんな方法があるなんて」
自分でも驚いた。この世界の誰も知らない秘術だった。
僕は呼吸を整えて、今度は魔法を使ってコロネを回復させた。
「生命の水」と繰り返し唱えて、ジニーが来るのを待った。
来ない……。
僕はコロネを担いで、元いた橋に戻った。
いない……。
「どこへ……」
その時、山賊と戦っていたウェアキャットたちが来た。
「あっ、コロネ! 勝ったの!」
「おい! さっき僕と一緒にいたダークエルフの女の子を見なかったか」
「知らないよ」
僕はコロネの家に戻ったが、そこにもジニーはいなかった。
「最悪だ……」
ウェアキャットたちは、コロネの友達だからとジニーを探してもらっているが、おそらくそこらへんのゴロツキに捕まったわけではないだろう。ああ見えても、魔法の腕はある。
僕がこの辺りに(僕たち以外に)新しい人が来ていなかったかなと聞くと、魔道銃を持った男が歩いていたよ、と言った。
この前の、追跡者――シグルズとは違う男だ。
「あー……もう……」
僕が馬鹿だった。夜にジニーを連れて歩くべきではなかった。
「うっ……」
そもそもコロネのせいだが、責任の所在を明らかにしている暇は無かった。
コロネががくがくと震えていた。そうだった。溝でずぶ濡れなので、体を洗って、服を着替えさせないといけない。焦りすぎて、頭の回転が悪くなっていた。
外で洗いたいが寒いので、魔法でタオルを濡らして体を拭くことにした。服を脱がせて、せっせと拭いた。拭いて、拭いて……。
ない。
あるべきところに、ない。
……ちらっ……じーーーーーーーーーーーーーーーー。
ない。
やっぱりない。
ぽんぽんぽん。
ないね。
「あらあら泣き虫さんは、そういう趣味があったんですか」
ぎゃっ、と叫び声をあげると、そこにはアイ=ドールがいた。
「どうしたんですか?」
「おまえがいたかー! ジニーはどうした? ジニーは?」
「ご主人は捕まりました。ですが、えっちなことはされていません。この状況を見る限り、泣き虫さんのほうがえっちなことをしていると推測できます」
この人形め……。
「……で、どこにいるんだ?」
「それがですね。大きな大きなお屋敷なんですよ。場所は覚えているので案内できます」
「誰がさらった?」
「銃士です。その他にも剣士がいましたけど、何か言い争ってましたね」
「よし、殴りこみに行くぞ! 眼にもの見せてくれる!」
「わーい、たのしそー!」
アイ=ドールも喜んで叫んでいた、
すると、コロネが眼を覚ました。
眼と眼で通じ合う~。
コロネは裸で僕に抱きかかえられている自分を見て、顔を真っ赤にして、胸と股を手で隠して、黙り込んでしまった。
「あの……コロネさん?」
「……」
何も言ってくれなかった。




