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「ご主人は私、ヴァージニア=ドラクロワだよ。よろしくね」
「わーい。泣き虫じゃないほうの人だ」
アイ=ドールが凝り固まった関節を動かして、ジニーのへと近づいていった。
「契約は済ませましたか?」泣き虫は置いておいて聞いた。
「あっ、そうか……契約するには力を示さないといけないんだったね」
王族の翼竜など特殊な召喚獣は別だが、通常の召喚獣なら力を示さないと、召喚術士であっても召喚することはできない。
「いーよ。アイ=ドールはご主人気に入った。ずっとついていく」
いーのかよ。つーか、言っていること呪いの人形みたいだな……。
「あの泣き虫だったら、負けてもついていかなかった」
「僕だって、そんなボロ人形ほしくねーわい」
「……パラライズ=アイ」
アイ=ドールの両目が輝くと、
「ぐわっ」僕は痺れて、床に悶絶してしまった。
「弱いわ」アイ=ドールが僕の後頭部にちょんと乗った。
「はへあ(負けた)」
「ご主人。アイ=ドールはね。『石』属性の召喚獣だよ。主な特技は状態異常を起こす眼術と、石を使った防御魔法と、苦手だけど攻撃も少々出来ます」
「やったー。強いよ、アイ=ドールちゃん」
夕方になると、コロネが帰ってきて、痺れて動けない僕を見つけて、
「近くにマッサージ屋さんがあるから、そこへ行こう。いっぱつで直るよ」
「ひっ、はほほ? ふははあー(えっ、あそこ? 嫌だー)」
僕が回復して戻ってくると、夕食を終えていたところだった。
「で、クーが戻ってきたので、報告するよ」
コロネが今日の成果を話し始めた。
まず冒険者およびに近隣の労働者は北側にある銀山へ働きに出かけていて、商業都市ノイルから離れている人たちが多いそうだ。肉体労働が好きな人たちが殆どいないそうなので、逆に言うと肉体労働が嫌いな頭脳派がノイルには残っている。
「銀山って、コロネが捕まっていた山賊も話していたな」
「そうだ。地震があったり、大変みたいだけど、給料がかなり良いみたいだよ」
「その銀山って、弟王の領地内だよね」
「そうだ。ここから北へ……人が殆どいない峻厳な山脈にあるみたいだよ」
ここから北側は天然の要塞と言ってもいいほどで、赤龍の山と比べても、標高がかなり高く、入り組んでいるため、慣れている人でも迷うと言われている。
「……話を戻してもいいか?」
「ああ……悪かった。……続けてくれ」
僕の狙い通り、商人の中には関所を通過せずに物資を入れている者はいるそうだ。
「護衛をしたことがある人物から話を聞くと……」
コロネが言うと、ジニーが焦った。
「直接話さないでって――」言ったのにと言う声まで聞こえなかった。
「大丈夫だよ。その人、昼間っから酔っ払っているような人だよ。俺と話したことだって忘れているはずだよ」
「……」
ジニーは呆然としていた。いまさら怒っても仕方が無いし、もしも悪いとしたら指示をしたほうの責任だろう。もっと口酸っぱく言っておくべきだったようだ。
ただ、コロネの言い分もわかった。状況と言うのは常に変化するので、実際に行動する人の判断は重要になってくる。
それが、馬鹿でなければの話だが。
「その人が言うには、通ったは通ったけど行きも帰りも別の道で良く憶えていないそうだ。でも良い事は憶えていたよ。その時、商隊の先導をしていた人は、珍しい地図を持っていたんだって――自分たちのいる場所が赤い点で表示される地図だよ。その人がたまたま地図を見たときに、地図が動いたって言っていたよ」
なるほど。
「赤龍の洞窟は迷宮みたいだな」
迷宮。古代人が洞窟に魔法をかけて財宝を守る秘術だ。
「銀山に人が取られているらしいから、わざわざ赤龍の洞窟を通るための護衛が見つからないらしい。となると、護衛に紛れて商隊と一緒に通るのは難しいよね」
「うーん。おそらく――その地図は特殊な魔法がかかった地図だな。迷宮が変化するのも追随して変化するところを見ると、かなり高位の錬成士が作ったのかもしれない。……冒険者さえ見つければ、洞窟は通過できると思ったけど厄介だな。地図を手に入れないといけないのか」
「盗む?」
「駄目」ジニーがコロネを叱りつけた。
「それは最悪の選択だな。商人から盗むなんてよほど隙をつかないと難しいぞ」
「それならまだ、迷宮を通過する隊商の護衛をしたほうが良いですよね」
「そうですね――明日は高位の錬成士を探すのと、密売をしている商人を特定するのと、金を手に入れたから武器防具を揃えるというところですかね。……あとは、もしもの時を考えて関所を突破する方法を考えるか」
「うーん。関所は無理だと思うよ」コロネが断言をした。「俺の仲間もみんな突破できなかったから、本当に隅から隅まで検査するらしいからね。文書も魔法を使っているから偽造するのも難しいみたいだ」
「となると、やはり迷宮の地図を確保しなければならないってことか」




