15
残り二週間か。
ここまで来るのに追跡者が一人、それだけでも四苦八苦だったが、これから先の旅のほうがより厳しくなるだろう。
この商業都市ノイルでは武器、防具、スレイブを扱っている店を探すのは簡単だ。なにしろ、弟国領地のギルドの中心地でもあり、経済の中心地でもあるからだ。
当然、これからも追跡者は来ると考えられるので、装備は整えておきたいところだ。
それに生活用品も、欲しいものはいっぱいある。
さらに赤龍の洞窟に詳しい冒険者を探さなければならない。
全てを揃えるには先立つもの……金が無い――(決して昨日の夜のアレのせいで金が少なくなったわけではない)――何か方法を考えなくては。最初はお姫様が身につけている貴金属を売って金にしようと思ったけど、もしかしたら、足がつく可能性がある。それに大金の取引になるので身分証がないと取引の対象にもならないかも知れない、だからといって盗品を扱っている店に言ったら足元を見られるだろう。
僕が色々考えていると、
「ところでさ、ジニーおねえちゃんってお姫様なの?」
コロネはジニーが席をはずしているときに尋ねてきた。
「何故それを……」
「あのシグルズって剣士が言っていた……忘れたのか?」
……そうでした。
「あの野郎、余計なことを言いやがって……」
「凄い美人だもんね。凄いなぁ……始めて王族に会ったよ……で」
「これ以上、詳しいことは言わないからな」
「俺も何かしたい!」
なんなんだ。この好奇心の塊は。
「シグルズと僕が戦闘したときに気絶しただろ。ああ言う連中がいっぱい来るかも知れないんだぞ。ここまで連れてきてくれたのを感謝しているが……危ない目にはあわせられない」
「この都市のことなら俺が一番良く知っている! 僕は役に立つぞ」
僕も商業都市ノイルには居たことがある。それは奴隷の時、ジニーに救われたのも此処だ。ちなみに僕が詳しいのは富裕者層が住んでいる街のほうだ。
「……待てよ……ひひひ」
コロネが僕の笑い声に引いていた。
「ど、どうしたの?」
「なーに、貸しを返してもらおうかと思ってね」
僕があくどく笑っていると、
「それよりもどうなんだよ! 俺も手伝いたいよ!」
「まあまあ……」
僕たちが動くより、コロネに動いてもらったほうが確実だ。だが、僕とジニーはコロネを危険な目にあわせたくは無かった。だが、時間が無いんだよな……。
「よし……ジニーには内緒……」
コロネが目を輝かせたが、
「なにが内緒なんですか」ジニーが朝食のパンを買って戻ってきた。「駄目ですよ」
「どうして? 俺に手伝わせてよ!」
「駄目です。危険です」
「しかし……」
僕はジニーが決断するのを待った。
この旅の主役はジニーだ。彼女が決断しなければいけないのだ。本人もそれが分かっているのか綺麗な顔に暗い雰囲気がでていた。
「……簡単な仕事を頼めますか?」
良く決断した。さすがはお姫様と言ったところだろうか。
「俺、頑張るよ!」
ジニーは僕を見ずに、自分で考えたようだ。
「西側の関所を通過する商隊の警備を主にしている冒険者を探すことは出来ないかな。交渉は私たちがやるから、良さそうな人を何人か探して欲しいの。でも、絶対に直接話したり、危険なことはしないでね。相手に知られるようなことも無いように」
「俺の友達連中に聞いてみるよ」
「……できれば、調べる人数も少なくして。人の口に戸は立てられないわ」
コロネはウーンと迷っていたが、
「分かったよ。信用できる人だけに聞くから」
コロネはパンを咥えて、どこかへ走っていった。
「良い決断でした」
「ええ――私の闘いですからね。でも、本当に大丈夫でしょうか?」
「あそこまで言えば、それほど悪い結果にはならないと思いますよ」
「そうですよね……」
ジニーは自分に言い聞かせるように言った。
「私たちはどうしましょうか」
「僕は脅迫をしてきますよ。ジニーは……戦闘以外の旅の装備を集めてください」
「はい?」
ジニーが何の冗談? と言う顔をした。
「……お金はどうするのですか」
「駄目ですよ」
「えっ……」
僕はお姫様が指輪を外そうとするのを止めた。
「その指輪を買い取る店は限定されていますし、何より足がつく恐れがありますからね」
「だったらどうするんですか?」
「良い事を思いついたので」
「何ですか?」
「だから脅迫です」




