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14

「うーん。難しいなぁ」


「集中力が大事だ」


 コロネはその後の道中も魔法の練習をしながら歩いていた。シグルズを退治した僕を見直して、教師がなかなかやるのが分かり、多少やる気があがったようだ。


 夜も、次の日の朝も、継続して続けて、昼を過ぎて、もうすぐ太陽がしずむ。


 残り15日で、やっと商業都市ノイルに着いた。あれからシグルズの追撃も無かったので、急いで山道を歩いた。なので、三人とも疲れはたまっていた。


「どうする? もうすぐ夜だけど、都市の中には入れるかな?」


「うーん」コロネは商業都市の城壁を見つめていた。


 僕としては、コロネに明日じゃないと無理、とか言われるなら、夜になると門は閉じてしまうので、強行して入る手段を考えようと思った。


「いや……この時間帯のほうが良いよ。日が暮れだすと、衛兵の交代時間だから、そのぶん隙が作れる。ちょっと……行ってくるね」


 コロネは四つ足になると、全身から毛が生えて、狼の姿になった。獣人族の獣化だ。初めて見るが、見事なものだった。コロネは狼の姿で城壁まで進んで、遠吠えを連続二回出した。そして戻ってきた。


「遠吠え二回が合図なんだ。あとは僕の仲間が隙を見て縄を垂らしてくれるはずだよ」


「よーしよし。良い子だ」


 僕が犬の姿になったコロネを撫でると、犬のように目を細め――カッと見開いた。


「誇り高きウェアウルフに対して無礼な!」コロネが噛んできたので、骨の剣を噛ませた。案の定、コロネは喜んだが――ペッと骨の剣を吐いた。「このー!」


「まあまあ、落ち着けよ」


「がるるるるっ!」


 と、遊んでいる間に、城壁から縄が垂れてきた。夕方になり、視界が悪くなっている。僕たちは城壁に近づくと、コロネは人間に戻り縄を腕の力で昇った。上まで昇ると手を振ってきた。さて次はどっちが昇ろうかなと、ジニーを見たら不安そうな顔をしていた。


 ジニーは縄をつかみ、コロネを習って昇ろうとした――落ちた。


「ど、どうしましょう」


 ジニーはダークエルフとはいえ女の子だ。上まで昇る腕力が無かった。


「僕と一緒に行きますか?」



「おぶられるのは、子どものとき以来です」


 嬉しそうに笑みを浮かべてから、ジニーは僕に後ろから抱きついた。思春期な僕は、背中に当たる胸に集中して仕方なかった。


 ぷにぷにぷにぷにぷに……。


 思春期が膨張した。


 なんとか縄を登り、上に辿り着いた。


 いい経験だった。


「重くなかったか?」コロネは繊細でなかった。


「……重いですか?」ジニーは背負られたまま耳元で囁いたので、ぞくっとした。


「いえ、そんなことはありませんよ」僕はジニーを降ろした。


「それなら、良かったです。」


 いい経験をした。



 僕たちは難関を突破して、コロネの家へと向った。コロネの仲間は帰ってきたのを知って掃除してくれたといったが、家のある場所は貧民街で、それほど綺麗になっていなかった。こういうところにお姫様はどうだろうかと思ったが、さんざん野宿をしているのでいまさら感もあった。


「ふー、愛しき俺の家よ……雨露を凌げるのは最高だね」


 コロネは寛いで床に転がったが、僕たち三人でも狭い部屋だった。


「……三人だと、狭いね」


「でもこの部屋は鍵が掛かるから盗まれる心配は無いよ。ジニーおねえちゃんは危ないだろうし……」


 確かに危ないだろう。美女は美しいと言うだけで、危険な目にあうものだ。ある所だったら醜いほうが遥かに得をすることもあるだろう。


 ん? となると、わざわざ「この部屋は」と言ったコロネもそういう目に会ったことがあるのだろう。山賊にはずかしめられそうになった時も激怒していた。


 美少年も辛いのだろう……。多分仲間から危ないから鍵付きの部屋を譲られたのだろう。そう考えると、凄い可哀想になってきた。


「……なんでそんな哀れそうな表情に?」


「いやいや、お前も苦労しているんだなと思って」



 今日はもう遅かった。


 それに疲労困憊なので、就寝することにしたが、寝るには川の字になるしか無かった。


「ジニーおねえちゃんは真ん中がいいんじゃないか。俺たちに挟まれて温かいよ」


 頑張れ、コロネ! 僕もそれが良いと思う。


 僕に再び、ぷにぷに感を味わわせてくれ。


「……コロネちゃん、私は端で良いよ」


 駄目だったようだ。絶望だ。死にたい。


「僕が真ん中でもいいよ」


 僕は勝負に出た。


「駄目よ」


 ジニーの冷徹な一言で、僕―コロネ―ジニーの順で寝ることになった。

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