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13

 シグルズは一見貧弱そうで顔色が悪い、だが不意打ちに対応する感覚の鋭さは腕の良さによるのだろう。


 そして――その名には聞き覚えがあった。魔女から聞いたことがある。魔王の配下、魔剣士シグルズ。


「僕の名前はクー=デュラン……魔女の騎士だ」


「クー=デュラン? ……いや、違うな。お前、名を貰ったな? この世界でクー=デュランと言う大層な名をわざわざつける親はいないだろう。それに黄色肌と黒髪……たしか『地球』というところから来た者たちの特徴だな?」


 僕の名前は魔女の――最初の魔女の騎士の名前だ。


「まあ、先ほどの不意打ちといい、魔女の騎士とは程遠い卑怯者のようだがな」


「いちいち五月蝿いやつだな」

 卑怯者と呼ばれるのは心外だった。


「ところで……お姫様はいるかな?」


「……」


「ふん、だんまりか。まあ……力付くで聞くとしよう」


 シグルズは弦楽器を地面に置いて、鋼鉄製とおぼしき剣を両手で構えた。僕は相手が魔法を使ってくると思っていたので、この展開は意外だった。先ほどまでの音波探査の精度といい、『音』の魔法の熟練者なのは明白だ。


「剣で勝負だ! だが、その錆びた剣は酷いのお……まともな剣を持っていないのか」


「これでも勇者の剣だぞ!」


「……あの虐殺兵器か! どうしてそんなに錆びているんだ!」


 それは僕も聞きたいところだが、とりあえず――錆びた剣を構えた。


「物を大事にしない愚者め。成敗してくれる」


 それは、魔女に言ってよ。



 お互いに剣を正眼に構えて、間合いの外で対峙した。さきほど地球の名前が出てきたが、シグルズの構えは剣道の構えに似ていた。僕も地球の記憶がほとんど無いけど、戦士だった頃に体を使って覚えた剣道は忘れておらず、剣の修行をするにつれて自然と剣道の構えが板についてしまった。


 シグルズが滑らかな動きで、上段になり、一気に打ち下ろした。


 錆びた剣で受け止めると、表面の錆が弾け飛んだ。


 そのまま、何度も何度も打ち下ろしてきた。掌に痺れが走り、釘のように打ち込まれる連打は受け止めるだけで精一杯だった。


 シグルズの剣が煌き、横っ腹を走り抜けるように斬った。


 その動きにも何とか対応できた。


「ほう……魔女の騎士だけあって対応は出来るか」


 再び正眼に構え、剣先が点になるように動かした。瞬間的に突きが来ると判断して、足の力を脱力させて、最速で身を屈めた。


 案の定、突きが飛んで来た。


 錆びた剣を受け流して、シグルズの左手首をつかんで、足をひっかけて投げた。シグルズは地面に手をついて回転、すぐさま体勢を整えて剣を構えなおした。体勢を整える早さに舌を巻いた。


「……剣技に格闘技を取り入れているのか、面白い」


 逆に言わせて貰うと、あの体勢から投げられておいて、即座に受身を取って体勢を立て直すのは無理だ。曲芸を見せつけられたようで、遊ばれているような気分になってくる。


 即座に投げ技がでたが、僕は魔女に格闘技は習っていなかった。地球の記憶はほとんど消えたが、地球にいたときに接近戦の訓練をしていたはずだ。


 とっさに体が動いたのだろう。


「ロック・ガン!」シグルズは横っ飛びをして、殺到してきた石を避けた。繁みからジニーが飛び出してきて、黒曜石の短刀を構えた。「私がヴァージニア・ドラクロワだ」


 シグルズは笑って、ジニーを見つめた。


「気丈なお姫様だ」


 闘いにおいて、目を離すのは愚の骨頂だ。


 それは卑怯以前の問題だ。


 僕は体を倒して走り、錆びた剣を上段で構えて、走りながら打ち下ろした。剣道成立以前に、最初の一撃のみを考えた剣技があった。走りながら、斬ると言うもので、慣れていないと対応することすら、いや……分かっていても難しいだろう。


 シグルズも初めて見たのだろう。


 止まらずに斬るという上段斬りを足さばきで対応できず、剣で受け止めた。だが錆びた剣は剣を弾き飛ばして、左肩を通った。感触がほとんど無かった。手先の勘違いではなかった。シグルズの左肩が砂山のように崩れて、左腕が地面に落ちて霧散した。


「ぐっ……。反魂の魔法が不完全だったか」


 シグルズは木っ端微塵になった左腕を見て、歯噛みした。


「それに武器の差か……さすが錆びたとは言え……勇者の剣だ。また、会おう!」


 シグルズは弦楽器を拾い、崖の下へと飛び込み、川に落ちる音がする前に『音』属性の魔法を放ったようだ。体と耳に痛みが走った。おそらくシグルズは落下の勢いを殺したのだろうが、離れた位置からでも僕たちには十分な衝撃だった。


「ふう……運が良かった」


 僕は『鋼』で音の衝撃はそれ程ではなかったが、ジニーは僕以上に痛かったようで、両耳を塞いで蹲っていた。僕はコロネのところへ行ったが、コロネは気絶しており、骨の剣を握り締めて汗をかいていた。『命』の魔法「生命の水」を使って、二人を治した。


「魔剣士ですか、昔話では聞いたことがありましたが、恐ろしい強さでしたね。と言いますより……デュランは意外と強いんですね。びっくりしました」


「僕……魔女の騎士ですよ?」


 ずいぶんと僕の評価は低かったようだ。まあいいけど。


「俺も見直したぞ! 意外と強いな」


 コロネも絶賛だが、最初にお前を助けたのは僕なんですけど?


 にわかに味方からの評価が高まった僕であった。

※音波探査はアクティブソナーのイメージ

 それと足を止めない剣技は示現流

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