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目安でしかないが、残り十六日が経つまでに国王に会わなくてはいけない。
なかなか厳しいが、だからといって最初から諦めていたら終わりだ。
真面目な顔で色々考えているが、コロネが元気良くちょこまか動くので集中が出来なかった。僕もジニーも未成年だが、コロネに比べたらだいぶ大人だ。
「クー。つまんなぁい」
コロネは僕たちと一緒に商業都市ノイルに行くことを了承してくれた。そこに住んでいたから当然といったら当然だが、「訳あって通行手形が無い」と言うと、「大丈夫大丈夫。抜け道があるから」と言ってくれた。
コロネと出会えたことは幸運だった。
当初はどこかの行商人の馬車にはいって、どうにか通過するつもりだった。だが、いまはコロネがいるので、都市に侵入するには色々な方法はあるが、確実と思われるコロネの方法を選択した。もしかしたら、それで失敗をすることもあるかもしれないが、大きな目で見たら良い選択だったと言えるはずだ。
「つまんなぁいよ!」
うるせー!
「だったら……」僕は山賊が置いていった『命』属性の骨の剣を渡した。決して盗みではない、落ちていたものを拾っただけだ。
「魔法の修行でもするか?」
「やだ。めんどい」
獣人は身体能力が高いので魔法が苦手と言われるが、決して使えないわけではないはずだ。この後、もしかしたらコロネの力が必要になるかもしれないので、スレイブから単純魔法を出すだけでも覚えさせたかった。
「単純魔法が使えるだけで、それなりに稼げるぞ。全ての単純魔法が使えるようになるからね。引く手あまただ」
魔法の修行は勉強と同じだ。それぞれ得意分野は違うけど、やってみなければ使える使えないかは分からない、とりあえず獣人ウェアウルフを教育するのは、道中の暇潰しにはなりそうだった。
「稼げるならやる」
コロネに骨の剣を持たせて、骨の剣に意識を集中するように言った。
一時間後、なかなかコロネは辛抱強かった。
二時間後、嫌々やっているが、何も起こらなくても頑張っていた。
「うう……できない」
「で、骨の剣に集中して、引っ張り出すような感覚で」
そういった瞬間に、コロネが飛び掛ってきた。
「集中したら出来るんじゃないのかよ!」
両脇を掴み、持ち上げると、コロネの両足は地面から離れて、ジタバタした。
「いやいや、まず第一に集中力だ。並外れた集中力がないと難しいんだよ」
「俺の二時間を返しやがれ」
「コロネちゃん……魔法ってそう言うものなの」コロネの修行を放っておいたジニーが会話に参加してきた。「才能があれば、すぐに出来るけど、最初は感覚がつかめないから頑張ってみて」
「うん……」
僕もジニーも教える立場になったことがないので、感覚の話になるのが辛かった。本当だったら簡単にコツを掴めるといいのだが、慣れてくると初心者の頃の感覚と言うのは忘れてしまうものだ。
さらに一時間後、昼飯を食いながらもコロネは集中していた。
「で、できない」
「まだまだ」
「うん……」
コロネが目を赤くしている。どうやら自分に才能が無いと思っているのだろうけど、横から見ている限りかなりの集中力があるので、希望は捨てないでもらいたかった。
僕は生えていた猫じゃらしをコロネの唇の前に差し出して、
「これを咥えて」
コロネは小さな歯で、茎を咥えた。
「時間が経つにつれて、猫じゃらしが枯れてくるから、それをどうにか直すんだ」
「うん」
「草は生きている。直すと言う気持ちを込めて『命』を引き出せ」
「でも……出来るかな」
「僕は一日で出来たけど。教えてくれたのが魔女だからね」
「私は二日くらいかな。だいたい一週間かかって出来なければ才能が無いって判断されるよ。というか、一日で出来たの? 凄いね。さすが魔女の騎士と言うか」
「教師が良かったからね。で、さっき思い出したんだけど、猫じゃらしを咥えて、治す修行をしていたんだったよ。一日しかやっていないから忘れていたね」
コロネは再び集中して、魔法能力開発にいそしんだ。
昼を越え、夕方を迎える前に、僕たちは異変に気付いた。最初に気付いたのはジニーで、何か体中に違和感を感じると告げた。