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「ところでお姫様は何か魔法が使えるんですか?」
旅の道は長く長い、僕たちは身分の差があれど、自然と雑談をしていた。
お互いの年齢が16歳なので、親近感があったのも要因にあるだろう。
僕は魔女が生きていることを確信したこともあり、何より昔僕を助けてくれた恩人だ。話しても話し足りないほど言葉が出てきた。
ただ、奴隷であったことと、助けられたことはいえなかった。
「ええ、私は前に言った通り召喚術。それと『石』ですね」
「石ですか……スレイブは持ってきていますか」
「残念ながら。逃げるのに必死でしたから」
僕は鞄を探して石のスレイブを探した。『石』だからと言って、そこらへんの石ころでは魔法を出すことは出来ない。僕が見つけたのは黒曜石の短刀だった。
「武器にもなりますから、どうぞ……」
「ありがとうございます。でもデュランさんが使ったほうが」
僕の背中には錆びた剣がある。ヴァージニアは僕の剣の腕を心配しているようだ。たしかに良いところをまだ見せていない上に、さっきは散々泣いてしまったので実力を心配しているのだろう。
「まあ、打撃には良いですよ」
勇者の剣は悲しいほどに切れ味が悪かった。多分そこらへんの包丁のほうがまだ切れ味が鋭いだろう。金属製でアホみたいに重いので杖代わりにもならない。『星』は魔王が驚いただけあり威力は異常にあるのだろうけど隕石なんて落ちてきたら命がいくつあっても足りないので使えない。となると、『鋼』に期待する他ないだろう。
『鋼』の使い方を思い出そうとした。
一般的な武器はだいたいが金属が使われている。たとえば銅の剣、鉄の剣などだ。魔法を使う人たちが金属を避けるのは、魔法を退ける力があるから、所持するだけで魔法力が低くなる、もしも魔法を使う人が武器を持つなら、ヴァージニアに渡した黒曜石の短刀のようなものを使ったほうが有利だ。
『鋼』は金属を操る。問題はその金属の素材が無いときだ。
魔女も適当魔法『水泡の盾』を使うときに小川から水を運んだように、『鋼』を使うには、金属が近くにないと使うことが出来ない、相手がたまたま持っていたら儲け物だが、自然にある金属を集めるのは結構大変だ。何か金属製の物を持ち歩いていればよかったが、腐っても魔女の騎士なので、スレイブを数個しか持ってきてなかった。ならスレイブを使えばいいだろうという話になるが、せっかく永久機関マイスターを使っているんだから、スレイブの節約をしたいというのが一般的な人間の考えだろう。
僕が良い方法を考えながら歩いていると、山賊に出くわした。
と、言っても、僕たちは小さな崖の上にいて、崖の下に数人の山賊たちがいたのだ。
「運が良いですね」
そうだろうか。山賊に見つかっていないとはいえ、遭遇したら運が悪いのではないだろうか。悪運が強いと言うことだろうか。まあ、感覚は人それぞれだからどうでもいいか。
しばらく聞き耳をたてていると、山賊は盗品の分配の話をしていた。そして真面目に働くことの話をし始めた。山賊と言えど、毎日毎日盗みばかりしては食えないのだろう。
「そう言えば、銀山が見つかったって話を聞いたな」
「まさか銀山で働くんですか? きついですよ」
「真面目に働いているふりをして、銀をいただくのよ」
「さすがっす」
「でも、あの銀山、地震が多くて仕事していないって聞きましたね」
「なんだと、それじゃあ駄目じゃないか!」
「おい! ウェアウルフが逃げるぞ」
ウェアウルフ。獣人族、人間が混じった狼の一族だ。
山賊たちの間を縫って、犬耳をしたボロ着の少女が素手で山賊と戦っていた。だが、多勢に無勢だった。三人の山賊はウェアウルフを捕まえると、地面に放り投げていた。
「くそっ、離せ!」
「そういや……こいつの分配が済んでいなかったな」
「売ってからしましょうや。どれくらい金が入るか分かりませんし」
「馬鹿か。今でも十分楽しめるだろ」
ウェアウルフが恐怖の悲鳴をあげた。言っている意味が分かったのだろう。猛烈に暴れ始めた。
「おい、暴れるな」
「嫌だ! 止めろ!」
山賊は奴隷も扱っていたのか。僕は血が沸騰するのを感じたが、横にいるヴァージニアは頬を紅潮させて怒りで黒曜の短刀を握り締めていた。
「デュランさ……」
ヴァージニアは僕に山賊退治を提案するところだったのだろう。
だがその前に、僕は崖を飛び降りて、山賊の一人を勇者の剣で叩いて気絶させていた。