鬼灯花鈴、その6
「花鈴?おーい花鈴? 花鈴ちゃーん?」
「え・・・あ、は、はいはい!?何!?」
「いや何じゃなくて・・・大分落ち着いたみたいだけど、もう大丈夫か?」
「あ、う、うん! 何か弥太君と話をしてたら具合が良くなったよ。ありがとね弥太君」
「いや俺何もしてなくね? ただ立ち会っただけじゃね?」
「だから元気になったんだよ。弥太君見てたら何だか気持ちが楽になったの」
「なるほど、俺は癒し系男子だったのか」
「アハハッ、そうかもね」
冗談混じりに笑い合う私と弥太君。昔と何も変わらない弥太君の笑顔を見てると元気になるのは本当の事。それと、私が弥太君に対する想いも強くなってることも感じられる。
昔のことを色々と思い出していたけど、今思えば楽しい時も悲しい時も私の傍には弥太君が居てくれた。私が笑ってる時は私以上に楽しそうに笑って見せて、私が泣いている時は傍らで頭を撫でて慰めてくれた。嫌な顔一つ浮かべずに。
今になって考えてみると、私はずっと弥太君に頼りっきりになっていたと思える。いや・・・それは今だってそうだ。今だって弥太君は私を気遣ってくれてる。今日のこの瞬間だって私が悪夢を見て泣いてただけでも、取り乱して飛び込んで来るくらいだ。自分が情けないと凄い思える・・・思えるけど、それ以上に私みたいな人ことを心配してくれる弥太君の心遣いが純粋に嬉しい。今でも私のことを見てくれてるんだって思えるから・・・
「エヘヘ・・・」
「な、何? 泣いたと思ったら俺の顔見て笑うって何か酷くね? 俺の顔はそんなに滑稽?」
「ううん、そうじゃないよ。深い意味はないから気にしないで」
「そーなの? ならいいけど・・・ま、まぁ元気になったんなら良いか。そんじゃ帰るわ」
「あっ・・・」
苦笑いした後、弥太君は手を軽く上げて振ると、私に背を向けてバルコニーの塀に乗って帰ろうとする。
弥太君の背中を見た時だった。胸の中がもやもやし出したのは。もっと色々お喋りしたい、もっと一緒にいたいという気持ちと裏腹に、弥太君が帰ろうとしてることにきっと寂しさを感じてるんだろう。でもこれは私の勝手な我が儘だ。そんな小さな理由で弥太君を引き留めようとすれば迷惑が掛かる。だからこのまま見送ろう・・・見送ろうと思ってるのに・・・
「・・・・・」
「花鈴?」
頭では分かってるはずなのに、身体が勝手に動いて弥太君の左手首を両手で掴んでしまった。
弥太君は分からないという顔を浮かべて首を傾げると、バルコニーの塀から飛び降りて私の勝手な顔を除き混んできた。間近に見える弥太君の顔、それを見たら顔に熱を感じ出した。
「どした花鈴?」
胸がドキドキして心臓の鼓動の音がはっきりと聞こえてくる。このままじゃおかしくなりそうなのに、未だに私は弥太君の両手を掴んだままだ。しかも手の平から少しだけぬるっとした感触がしてきているところを確認すると、緊張で手汗が出てきてる。離さないと駄目だと分かってる。分かってるのに・・・何で私の意思を無視して離してくれないんだろう・・・
・・・いや違う。これは反射的にしてることなんじゃない。私が自分で望んでやってることなんだ。迷惑が掛かると分かっていても、それでも今は・・・今だけは離れたくないんだ・・・
「弥太君・・・私・・・まだ・・・その・・・」
「?」
上手く言葉が出てくれない。これじゃ駄目。ちゃんと言わないと・・・じゃないと困るのは弥太君なんだから。冷静に・・・正直に・・・
「弥太君!」
「は、はい!?」
「き、今日はもう遅いから私の家に泊まっても良いよ!!」
「は、はい?」
って、私は何を言ってるの!?
と、即座に思ったのに私の暴走は止まってくれなかった。
「ほ、ほらぁ!? もしかしたらここで弥太君がまた飛び出したら下に落ちちゃうかもしれないでしょ!? うん! きっと眠いだろうから落ちちゃうよきっと! だから今日は私の部屋で一緒に寝ようよ! ね!?ね!?」
「え? あ、おぉう?」
「あ、あぁ! こんな時間に外にずっと出てたら風邪ひいちゃうよ! ほらほら早く中に入って!?」
「う、うん・・・?」
もう最悪・・・完全に変な奴だって思われた・・・・・それでも私はヤケクソ気味に目を回しながら弥太君の手を掴んだまま部屋の中へと戻っていき、弥太君は弥太君で困り顔になりながらも釣られて私の思うがままにされていた。




