鬼灯花鈴、その3
「鬼灯花鈴です・・・」
クラス替えが行われたから、クラスで自己紹介をすることになるのは普通の流れなんだろう。
他の人は好きな物とか、好きな趣味とかを言って自己主張をしているけど、私はそんなことを無駄に言うつもりなんて全くなかった。言ったところで私の評判は既に知られているからだ。悪いネタにされるだけ、だから私は名前だけを伝えて席についた。その後にひそひそと周りが私を見ながら話をし出す。
「(あれが噂の鬼灯って子だよね?)」
「(親から見捨てられた可哀想な奴だよな?)」
「(見た目からして暗そうな奴だよなー)」
「(感じ悪いわよねなんか)」
こっそり話をしてるつもりだけど、全部丸聞こえだった。当然内容は私に関する良くない話だ。でもだから何だ。他人から何と思われようと関係ない。
私は周りを目だけを動かしてキョロキョロと見渡す。誰も彼もが私を見てニヤニヤしながら軽蔑の眼差しを向けてくる・・・一人を除いて。
「・・・ハァ」
私のすぐ左隣に座っている男の子、彼だけは違った。彼は私を見ている全員の生徒を鋭い目付きになって見回した後、呆れたようにため息を吐いていた。それはまるで、生徒皆に幻滅しているような、そんな様子だった。
なんだろうこの人と思っていると、自己紹介の順番が変わっていき、一番窓際の後ろの席である最後の彼に出番が廻ってきて、先生が合図をすると彼は立ち上がり、そして自己紹介を始めた。ただし・・・私にとって信じられない自己紹介での発言をして。
「どうも~、柚木弥太と言います。好きな物は可愛い生き物とか甘い物とかノリが良い奴とか色々ありましてね、でも嫌いなものははっきりと一つだけ言えることがありま~す」
周りの生徒は彼の言い分を聞いて面白可笑しく笑う。でも、その笑いは次の彼の一言で打ち消されることになった。
「嫌いな“者”はですね~・・・噂とか他人の良くない事情で人を見下してヘラヘラ笑いながら軽蔑するテメェらみたいなクソ野郎共のことで~す」
「ぶっ!?」
にぱぁ~っと柔かな笑みを浮かべて言った彼の発言により、クラスはピシッと凍りついたかのように静まり返った。その中で、私は思わず驚愕あまりに吹き出してしまった。何が起きているのか分からないというくらいに、彼の自己紹介は異質過ぎるものだったから。
それから彼は柔かな笑みをニタァ~っと憎たらしい笑みに変えて生徒全員を見渡し、後ろで手を組みながら席についた。
それからやっと彼の・・・柚木君の言った発言をいち早く飲み込んだ先生が、頬を引きつらせて柚木君に問いかける。
「あ、あの~柚木君? 今のは一体・・・」
「言葉通りの意味ですけど? 最近になって聞いた噂なんだけどねぇ? 何でも俺の隣に座ってるこいつ、親から見捨てられただ、鬼の子だとか言われてんだろ? それだけ聞いていじめが行われてるとか何とか聞いたし、現にこいつが自己紹介終えてどいつもこいつもヒソヒソヒソヒソとねぇ? 先生も先生で何も知らない素振り見せてるし? だから俺の正直な気持ちを伝えただけなんですけど・・・なぁ?クソ野郎共?」
自分も人の事を言えないけど、彼が少なくとも小学三年生に見えなかった。話口調、素振り、何から何まで完全にそれはマセガキと言える。
すると、先生だけじゃなく周りの生徒も柚木君の話を呑み込んだのか、全員が全員柚木君のことを敵対心を込めた目で睨みつけ始めた。周りから視線を貰うと、柚木君は憎たらしい笑みを浮かべながら、これまたはっきりと思いの言葉をぶつける。
「何ですか~? 文句あるんですかその目つき~? 上等だコノヤロー、気に食わねぇならイジメなり何なりの標的にすればいいさ。好きにすればいい。まぁ、こんな安い挑発に乗ってるテメェらのイジメ何ざ、たかが知れてるけどな。悪口?暴力?陰湿な悪戯?どうせそんなところだろ?小せぇ小せぇ、アッハッハ」
「お、お前っ!」
生徒の一人が立ち上がって柚木君を強く睨みつける。でも柚木君は物怖じ一つせず、逆にその生徒を食い殺すかのような鋭い目つきで睨み返した。その生徒はビクッと身体を震わせて怖気づき、それを見た柚木君は鋭い目つきで見つめたまま不敵に笑う。
「言っておくけどよ、俺をイジメの標的にして相手になるってんなら覚悟しろよ? 中途半端な気持ちで俺を敵に回したらどうなるか・・・さっき言ったイジメ三原則をより強化させた三原則で逆に返り討ちにしてやんよ。もしそれが怖いんだったら・・・」
柚木君はそこで言葉を止めると、横目で隣に座っている私を見つめてきた。すると、先程からの表情から考えられないような柔かな笑みを一瞬浮かべ、すぐにさっきと同じ表情に戻る。
「イジメなんてものは金輪際止めるこったな。んなことよりも面白い遊び何ていくらでもあるんだからよ。それを知りたい奴は俺に聞け。いくらでも教えてやるよ欲求不満な心を満たせるくらいの遊びをな。それじゃ、これから二年間よろしく~♪」
言いたいことを全部言い切った柚木君は、最後に子供らしい満面の笑顔をニカッと浮かべ、それ以上は何も言わずに大人しく席についた。
そして、もの凄い後味が残ったまま自己紹介が終えられると、本日の学校の終わりのチャイムが静まり返ったクラスに鳴り響き、先生の素っ気ない号令で自由下校時間となった。そんな中、私は柚木君を見つめながら固まって動けなくなっていた。惚れたとかそういう意味で向けている視線ではない、余りにも滅茶苦茶な自己紹介に驚きすぎて注目しているだけの視線だ。
これが、私が初めて柚木弥太君と出会った時の凄すぎる出来事だった。




