夜の自由時間、その6
「にぃ・・・にぃ・・・ちゃん・・・」
「ん? 弥太君?」
「しばらく・・・ここに・・・避難させてくれ・・・」
「アッハッハッ、いいよいいよゆっくりしていって」
笑っているところを見ると、俺が今どういう状態にあるのかを分かってくれているようだ。俺はフラッフラな足取りで部屋のドアを閉めてから進んでいき、優助兄のベッドにバフンッとうつ伏せに倒れ込んだ。
「真っ白に・・・干からびたぜ・・・」
「アッハッハッ、弥太君の高級珍味の完成だね」
「ウッフッフッ・・・皆優しく食べてね・・・いやそういう意味でなく・・・」
「あらら、これは相当お疲れ様になってるね。弥太君は皆から一番愛されてるから仕方ないけどね」
「だったら兄ちゃん・・・俺と立場をトレードしようぜ・・・今なら販売価格無料でお届け・・・配達料も無料でお届け・・・甲高い声でお送りするテレビショッピングよりお得・・・まぁ素晴らしいわぁ~・・・」
「できるなら変わってあげたいけど、こればかりは無理かなぁ~。 僕が皆に怒られちゃうからね」
「あぁ・・・唯一の救い橋が絶たれた・・・」
俺は虚ろな目を浮かばせると、そのままガクリと倒れて動かなくなってしまった。聞こえるのは優助兄の優しい笑い声と、カチカチとなる時計の針の音のみである。ここには彩晴妹も自由姉もミルティ姉も神奈妹も誰一人としていない。いるのは安らぎを与えてくれる優助兄のみだ。唯一安らぎ空間だった風呂場ですら俺は居場所を失ってしまったのだ。なので最終手段として日夜考えていた優助兄の部屋へと飛び込んだのである。逃げて逃げて逃げまくってだ。(主にミルティ姉から)
「そして今いるここはまさに楽園!! 完全なる絶対防壁!! 俺を見つけられるものなら見つけてみせよ!! フハハハハッ!!」
ガチャリッ
「あっ、弥太兄発けっ」
バタンッ!! トントントンッ!! カンカンカンッ!! バシッ!バシッ!
「よしこれでいい」
油断も隙もなく彩晴妹がドアから顔を出した瞬間、俺は某死神の瞬歩を使ってドア前に移動し、ドアを強引に閉めた後に大工顔負けの手際で板とカナズチを手に、ドアを完全に、それこそ完全防壁のように塞いだ。俺はいい仕事をしたという感じに爽やかな顔で、汗一つ付いていない額を拭う。
「やれやれ、これで一安しっ」
グルン、パタッ
「弥太兄、今日リンリン家に泊まるから皆で寝ようね~」
「どこの忍者屋敷ぃぃぃ!?」
安心したのも束の間、ドアのすぐ横がからくり扉のようにして壁が一回転し、そこから彩晴妹が再び再臨した。
「いつ改築しやがったこの野郎!! なんだこれ!? どうやって設置しやがった!?」
「ムフフッ、これで驚いては困るよ弥太兄。今やこの家はからくり迷宮なアレスチックに化しているのだよ」
「そんな滅茶苦茶な話が何処に・・・」
その瞬間だった。床、壁、天井の一部が一様に開いて皆が姿を現したのは。床からは神奈ちゃんが、壁からはミルティ姉が、そして天井からは自由姉とパジャマ姿の花鈴が。
「あっ、優君お勉強中? お邪魔かなぁ?」
「いやいや大丈夫だよー」
「頼む兄ちゃん!! この状況をすんなり受け止めないでっ!!」
家中がからくり化しているとは言っていたが、少なくとも優助兄の部屋はもう手遅れ状態だった。後で自分の部屋も確認しなければ洒落にならないかもしれない・・・見つけたらとりあえず頑丈に塞いでおこう。
「皆、今日は土曜日じゃないが、花鈴娘が来たということで今日は特別に"アレ"をするぞ」
「あっ、自由姉それ賛成~!」
「僕帰る」
俺は"アレ"という言葉を聞いて即刻この場所から退場しようと彩晴が出てきていた扉の方へと進む。だがそれは、自由姉が俺の左手首を掴んだことで遮られた。
「まぁ待て弥太坊、これは皆が集まることで初めて意味を為す行事・・・」
「ヤダ僕帰る。両生類に生まれ変わる」
「にぃにも一緒に集まろう? ね?」
「オラァ!! とっととリビング集合しろてめぇらぁ!!」
俺は天女の表情を浮かべる神奈妹を身体に抱きしめて、目くじら立てて叫び放った。
ついでなのでそれぞれの呼び方をまとめておくことにしよう。
~弥太の場合~
優助兄=兄ちゃん
自由姉=姉御
ミルティ姉=ミルちゃん
彩晴妹=彩晴または馬鹿、阿呆、etc・・・
神奈妹=神奈ちゃん
花鈴=花鈴または鬼子
~優助兄の場合~
弥太=弥太君
自由姉=姉御ちゃん
ミルティ姉=ミルちゃん
彩晴妹=彩晴ちゃん
神奈妹=神奈ちゃん
花鈴=花鈴ちゃん
~自由姉の場合~
弥太=弥太坊
優助兄=優主
ミルティ姉=ミルちゃん
彩晴妹=彩晴または阿呆
神奈妹=神奈月
花鈴=花鈴娘
残り四人は次に回します




