基本ライフスタイルはこれ、その10
いつの間にか時刻は夕方の六時。夕方だけにすっかり空は紅葉色に染まっていた。ゲーセンを後にした俺はそのまま家には帰らず、やっと一人になったので有意義に時間を使おうと町中をフラつき歩いていた。それは俺は地味に散歩好きなのである。そしてそろそろ帰ろうかなと思い、帰路を歩き始めたところでばったりと、とあるクラスメイトと遭遇した。
「あ! 弥太君偶然だね!」
「おぉ鬼子じゃん。何してんだこんなところで」
「弥太君と同じ理由ってところかな~・・・ってさりげなく鬼子言わないでよぉ!」
「すまんすまん、そりゃまたホントに偶然だな」
俺が笑うと彼女も笑みを返してくれる。そんな親しげに話を交わしている彼女の名前は鬼灯花鈴。通称『鬼子』である。彼女とは慶次と同じく小学生からの付き合いで、これまた慶次と同様に今の高校二年生に至るまで同じクラスメイトなのである。ちなみに高校の生徒会長も勤めてたりしちゃう人で、家もお隣さんという事実もあったりする。
後ろ髪を一本にまとめて腰まで伸ばした黒髪で涼しげな印象の彼女は、才色兼備の文武両道なエリートというわけで、恐らく学校一モテているスーパースターである。どうしてこうも俺の友人はモテる奴ばかりなのか、何だか泣けてくる話である。ちなみに花鈴も慶次とまたまた同じく何度も告白を二桁数で受けているのだが、既に好きな人がいるということで全てを笑顔で一蹴していると本人が言っていた。それに俺が「なら惚れられたそいつは幸せものだな、鬼男の誕生じゃん」とからかったら、大いにため息を吐かれた後に、彩晴妹と共に陰湿な悪戯を受けたという歴史がある。冗談は程々にしなければと思っていた瞬間であった。
「弥太君は今から帰るところ?」
「そうだよ」
そう言うと花鈴は何故か俺に背を向けた後にガッツポーズを決め込んで何かを呟いている。人のことを言えた義理じゃないかもしれんが、こいつも充分アブノーマルな人種に属するのだろう。見た目云々関係なくだ。花鈴は今一度クルリと身を回転させて俺の方を向くとより一層和やかな笑みを濃くした。
「そ、それなら一緒に帰ろうよ」
「うむ、我との帰還の護衛として許可しよう」
「ありがたき幸せ~!」
俺の周りはノリ良い奴ばかり、花鈴もそのうちの一人で俺のボケに合わせて、立ちながらお辞儀をしてくれる。だが、後に先程と同じように背を向けてガッツポーズを決め込んでいるが、まぁ気にしないでおく。そして俺達は並んで歩き出す。もちろん俺が道路側である。そこら辺の配慮は俺でもしっかりと心得ている。
「しかし今日は色んな奴に出会うもんだな。慶次に雅た・・・さんに、最後に鬼子だし」
「だから鬼子言わないでってばぁ!!」
「いいじゃん親しみあって。俺は好きだけどな」
「え!? すすす好きって!?」
「いや鬼子っつーあだ名ね?」
「な、なーんだそうかー・・・アハッ、アハハハッ・・・・・ハァ・・・」
何故か最終的に重いため息を吐かれたが、気にしないでおく。「何で最終的にため息に落ち着くんだよ!?」と、イチイチ突っ込んでいたら身が持たないので、ささっと左に受け流させてもらおう。
それからしばらくして花鈴をからかいながら小突かれつつも歩いていると、話をしていると早く感じるもので、あっという間に自宅へと到着した。空もすっかり暗くなっていて、いくつか星がキラキラと輝いている。
「ほら着いたぞ。親が心配しないうちに帰・・・」
「そ、そういえばさぁ! この前、町中を散歩してたらハリネズミの行列行進を偶然発見してね!」
「ハ、ハリネズミの行列行進?」
「そうそう! それでねぇ~・・・」
柚木家の自宅のお隣さんというわけで、俺は花鈴を見送るために鬼灯家の前で立ち止まったのだが、花鈴は慌てるように話題を無理やり作って一向に家に帰る気配がなかった。名残惜しいのか分からないが、俺は大体のことを察すると、話の途中でやれやれと頭を掻きながら苦笑し、再び花鈴の話題が尽きる。
「そ、それでね、えーっと・・・その~・・・」
「あのなぁ花鈴、もっと正直になろうぜ? まだ帰りたくないならそう言えばいいだろーがぃ」
「え!? べ、別に私はその・・・」
分かりやすい奴で顔にすぐ出るのが彼女である。俺は苦笑しながら呆れたようにため息を吐き、親指を立てて柚木家の方を指し示す。
「丁度いいからうちで夕食食べてくか?」
「え!? いいの!?」
本当に分かりやすい奴だ。
「どうせまだ夕食作ってないんだろ? 俺が作ってるわけじゃないけど遠慮しなくていいぞ。日曜だから兄ちゃんが当番日だし、歓迎してくれんだろ」
「そういえば日曜日だもんね今日! 正直に言うと凄い行きたい!」
「流石は鬼子。食い意地半端ないッスね」
「いやそうじゃなくて私は弥・・・ゴホンッ!!」
「や・・・なんだって?」
「何でもない!! というか鬼子言わない!!」
コツンと俺の頭に軽くゲンコツを浴びせると、俺は花鈴と共に自宅へと帰還し、玄関を開けて家の中へと入った。




