押しかけキヤ!
「明け方になって宿屋が火事になりましーた。しばらくこの家においてくださーい」
キヤは白のネグリジェ姿だ。顔や衣服が煤けている。この状況にもかかわらず、無理に明るく振舞おうとしている。
「宿が火事とは…。でも無事でよかった。他に怪我人とかはいないのか?宿は鎮火したのか?」
ルザは重苦しい顔で腕組みしながら、問いかけた。
「怪我人は多数。でも、死者、重傷者はいませーん。火はどうにか消えましーた」
ひとまず、延焼の心配はないようだ。消火の手伝いに行く必要もない。
「そうか、火事の原因とかわかるか」
「収穫祭の夜に執り行われる浄火の儀で使われた人形が原因でーす。観光客の子供が燃え残った人形を宿に持ち帰ったのでーす。宿屋の主人が目撃して、注意したのですが、観光客は聞き流し、泊まっている部屋にそのまま持ち込みましーた。そして、ゆっくり時間をかけて燃え広がったのでーす。タバコの不始末による失火と同じで-す。聖火が業火になったわけでーす」
「はぁ、なんとも、皮肉な事だな」
ルザはため息をつき、運命のいたずらを嘆いた。
「で、結局、わたしをこの家に泊めてくれるのでーすか?」
キヤは、ほのかな期待を込めて尋ねた。
「長老の家、もしくは隣村の宿にでも泊まったほうが無難だと思うが」
ルザの返答は素っ気無かった。キヤを泊めてもロクなことにはならないと想像がつく。
「長老は遠慮しときまーす。隣村の宿は路銀が足りませーん。枕元にある鞄は持ってこれたのでーすが、もう一つの鞄は部屋に置いたまま飛び出しましーた。それに疲れたので早く休みたいでーす」
「しかし、なぁ…」
ルザは困惑した表情で考え込んだ。その間にキヤが考え直してくれることを期待した。
「こうなれば、意地でもこの家に泊まりまーす。さっ、どいてくださーい」
そういうとキヤはルザを押しのけ、家の中に入り込んだ。わき目も振らずルザのベッドに向かい、そこで横になった。
「待て!俺のベッドで寝るな!」
「眠いんでーす。話はまた後で聞きまーす」