喧嘩のあとで…
ルザとキヤは喧嘩別れに近いかたちで、お互いにその場から立ち去った。日も沈み、あたりは一段と暗くなった。ルザの家は、周りに灯りもない村の外れにあるため急いで帰ることにした。
家路の途中、村の広場では収穫祭の最後の儀式が執り行われていた。悪魔に見立てた人形を燃え盛る炎の中へと投げ込み、豊穣と平安を願うものだ。一部の不届き者は悪魔ではなく、自分の嫌いな人物に似せた人形を炎に投げ込んだりする。長老も、その被害者の一人である。毎年、何体か炎の中に投げ込まれる。炎の近くでは、村のにわか人形屋が観光客相手に投げ込む人形を売り歩いている。ルザは毎年のことなので、気にも留めず素通りした。
村の広場を抜けると祭りの喧騒は収まり、いつもの鄙びた村らしくなった。村の中心部から遠ざかるということもあって、民家も段々とまばらになっていく。ルザの家に近づくにつれ、あたりは暗くなる。
しばらくして、ルザは家に辿り着いた。萱葺きの質素な家だ。ルザはここで、一人で暮らしている。父と母は近くの町でルザの幼い頃に離婚し、母は生まれ故郷であるこの村に戻ってきた。母の実家の酒屋は比較的裕福だったが、出戻りの母に与えれられたのは、この家と酒屋の店番の仕事だけだった。ルザには二人の姉がいるが、二人とも年頃になると近くの村に嫁いだ。母は二人の娘の晴れ姿を見ると、ほどなくして病に罹り、1年前に息を引き取った。
ルザは自宅のドアの鍵を開け、家に入るとすぐに、ポケットからマッチを取り出し、ランプを灯す。あたりが優しい明かりに照らされる。家の中は必要最小限の生活必需品だけで至ってシンプルだ。
ルザは空腹を感じたので、戸棚の下段から大ぶりな平皿を取り出し、上段にある鶏肉の燻製と乾パンを盛り付け、炊事場のそばにある樽から酢漬けのキュウリを引き上げたのち、これも平皿に盛りつけた。そして、盛り付けた平皿をテーブルに置いた。食事の準備が整うと椅子に座って食べ始める。喉が渇いたので、テーブルに置いてある母の実家の酒屋で買った安酒を開け、ラッパ飲みする。むせて吐き出す。すぐさま雑巾でテーブルを拭く。自分でも情けなくなる。
一通り食事が済むとルザは体も拭かずにベッドに入った。目を閉じ、ルザは今日の出来事を振り返った。収穫祭、キヤとの出会い…。やっぱり、あまり思い出したくなかったので、ルザは明日の事を考えた。明日は収穫祭の後片付けだ…。やっぱり考えないで素直に寝る事にした。しばらくして、ルザは眠りについた。
ルザは近所の鶏の鳴き声ともに目を覚ました。桶に溜めてある水で、顔を洗うと布切れで顔を拭いた。あまり食欲ないので、朝食は乾パンと水だけにした。収穫祭の後片付けのために身支度をしていると、家のドアを叩く音がした。ルザは何事か、と思いドアを開ける。
そこには青ざめた表情のキヤがいた…。