長老が来たから無事解決!?
長老は店の奥へと進み、椅子に腰掛けた。
「長老、ようやく来てくれましたか。このままでは収拾がつかなくなるところでした」
「ルザよ。概況は使いのものから聞いたんじゃが、お主らからもう一度詳しく聞きたいんじゃ」
「はい、では説明します。雑貨屋の店主が酒に酔い、女道化師キヤが曲芸の樽乗りができないことに腹を立て、キヤに対して服を脱ぎながら踊れ、と脅したのが発端です。キヤは脅しに応じなかったのですが、店主の高圧的な態度から譲歩し、コインの裏表当てで負けたほうが服を脱ぐということになりました。キヤは勝負に勝ち続け、逆に店主を上半身はだかにしてしまいました。そこに事情を聞いた店主の奥さんが戻ってきたところ、この光景を目の当たりにしたため、激怒して店の前にあった樽を店主に投げつけ大怪我させた、というのが事の顛末です」
ルザは長々と珍事件について説明した。
「長い。居眠りしそうなったわ。要点を抑えて説明してほしいのう」
「詳しく聞きたい、と言ったのは、そっちでーす。無理言わないでほしいでーす」
「この娘が女道化師キヤか。怒った顔もかわいいのう。わしの嫁の若い頃を思い出すわい」
「嫌らしい目で見ないでくださーい」
「にぎやかですわね、長老」
店の階段のほうから、雑貨屋の奥さんの声が聞こえてきた。
「雑貨屋の女将か、亭主のほうは大丈夫なのかのう」
「あの人は体が丈夫なことだけが取り柄ですから」
雑貨屋の女将も階段から降りて奥の椅子に座った。
「当事者も一人を除いて揃ったことだし、話し合いを始めるかのう。まず、キヤよ、お主はどうしたいのじゃ」
「わたしは来年の祭りも道化師を呼んでもらえればいいでーす。この村にはわたしか師匠のどちらかが行きまーす。ただ、実演場所は替えてほしいでーす。じゃないと、お互いに気まずいでーす」
「それだけでいいのかのう。処罰や慰謝料は求めんのか」
「話を大きくする気はありませーん。雑貨屋の旦那の処罰は奥さんがきっちりやりましーた。慰謝料はもらえるなら受け取りまーす」
「女将よ、お主はどうじゃ」
「その条件で構いません。細かい部分は長老にお任せします」
「わたしもでーす。細かい女は嫌われまーす」
「大丈夫か。これで」
ルザは不安を感じながら小さくつぶやいた。