そろそろ店の前での大騒ぎもおしまいにしよう
「アホ亭主が小娘の身包みを剥がそうとしているというので駆けつけてみれば、逆に小娘に亭主のほうが丸裸にされているなんて。恥知らずもいいところだわ。こうなったら私が成敗してあげる」
奥さんが怒りを顕わにすると店の前おいてあった小樽を持ち上げた。さすがに中身は入っていないとはいえ、男でも持ち上げるのは大変な代物だ。
「ちょっ、ちょっと待て。落ち着け。これは余興なんだ」
旦那である店主が狼狽する。
「言い分けなんて聞きたくないわ。これで終わりよ。おりゃー」
奥さんの叫び声と同時に樽が宙に舞う。店主は慌てて逃げようとしたが、酔っていたこともあって間に合わず、見事に命中してしまった。
「うぎゃー」
断末魔めいた声あげると、そのまま店主は地面に倒れこんだ。さっきまでニヤついて見ていた群集も凍りついた。あまりのことに逃げ出すものいた。
「思い知ったか。アホ亭主。お楽しみはこれからよ」
「わたしが言うのもなんですが、先ほど、これで終わりよ、と宣言されたのでおしまいにしたほうがいいと思いまーす」
「そういう意味じゃないわ。あんた、それでいいの。辱められままで終わって」
「わたしは平気でーす。裸になったのは雑貨屋の旦那でーす。わたしは帽子を脱がされただけでーす」
「あんた、驚くほど拍子抜けする声と態度ね。なんだか馬鹿らしくなったわ」
「冷静になってくれて何よりでーす。観客の皆さん、これにてお開きになりまーす。解散してくださーい」
道化師の少女に促されて、怖いもの見たさで残っていた観客も帰り始めた。ルザも観客とともに立ち去ろうとしたが、少女に呼び止められた。
「あなたは残ってくださーい。奥さんを連れてきてくれたのはあなたでーす。ちょっとお話しをしましょーう」
ルザは不可思議な少女に声をかけられて動揺した。遠くから見る分には可愛らしくてよかったが、この少女なんか変だ。あまり近寄らないほうがいいと、危険信号が出ている。
「いや、ちょっと外せない用事があって、また今度ということで」
曖昧な返答をしてルザはそのまま帰ろうとした。
「逃げないでくださーい。ほんのちょっとでーす。怖くないでーす」
そう言うと少女はルザの腕にしがみついた。
「何するんだ…」
「何かをしてほしいでーすか?できることとできないことがありまーす」