鄙びた山村の収穫祭ですが…。少し、変!?
小さな山村で収穫祭が始まった。
村の通りでは白いローブを纏った栗毛の三つ編みの少女がロバに跨り、守護聖人をモチーフにした山車を先導していた。
村の広場では祭壇が築かれ、壇上では村の長老が無事に収穫できたことを讃え、祝いの言葉を述べていた。ひとしきり挨拶を終えると、長老は木槌を手に取った。
「酒よ、出よ!」
長老が叫ぶと葡萄酒の樽の蓋が勢いよく割れた。同時に酒も飛び散った。長老は木槌から柄杓に持ち替え、村人に酒を振舞った。祭壇の付近では木のジョッキを持った村人が列を成した。
にぎやかな祭りの中、物見櫓で一人ミルクを飲む青年がいた。木こりのルザである。彼は長老から見張りをするよう頼まれたのだ。何か異変があれば櫓に備え付けられた鐘を乱打するように言われている。
「役目とは言え、せっかくの祭りなのになぁ…。こっそり酒でも飲むか」
一応、交代要員もいるものの、元大工のご隠居なので当てにできない。ぼんやりと村の様子を眺めていると、雑貨屋のあたりで道化師らしき女がいるのが目に留まった。
「あれ、いつも来ている太った親父ではないな。若い女だ」
ルザは目を凝らしたが、女の顔がよく見えないので櫓の道具箱から古い望遠鏡を取り出した。しかし、何も見えなかった。望遠鏡のレンズが埃で曇っていたのだ。
「何をやっているのだ。俺は。単なる退屈しのぎなのに。こんなに慌てて」
ゆっくり深呼吸をするとルザは自分のシャツの裾でレンズを拭った。今度は良く見える。道化師の女は四つの房のついた帽子を被り、胸の開いたヘソ出し衣装でジャグリングをしていた。女の周囲には観客が50人ほど集まっていた。村の規模からすれば結構な人数である。
「可愛らしい顔立ちだな。オシロイに黒い口紅、目の下に涙マーク。いかにも道化師って感じ」
「楽しそうじゃのう。ルザよ。鼻の下を伸ばして何を見ておるんじゃ」
しわがれた声があたりに響いた。ルザが驚いて振り返ると、そこには長老が立っていた。
「ちょっ!長老!どうしてここに…」
「どうしたもこうしたない。交代の時間じゃ。まもなくご隠居も来る。お主は酒も飲んでおらんようじゃし、見張りの務めも一応、果たしたので、礼にこれをやろう」
そういうと長老はポケットから銀貨一枚取り出し、ルザに手渡した。
「こんなに、いいのですか」
「気にするな。年に一度の祭りじゃ。今年は近隣の村からの客も多く、祭りの収支もだいぶ黒字になりそうじゃからのう。お主も祭りを楽しむと良かろう」
長老はかなり上機嫌だった。だが、ルザはなんとなく嫌な気配を感じていた。