獣王の力
助けに行くと決めてからの勇輝の行動は早かった。
一度木を降りると森の中を通りなるべく捕らえられた人達に近づく。
「さて、タイムリミットは5分って所かな………」
勇輝がオークロードの様子を伺うと膝をつき今にも倒れそうになっている。出血多量により倒れるのも近いと予想し、ロードが死ぬまでに人々を救出し、オーク達が同士討ちする間に逃げる事にする。
行動を決め、覚悟を固めると2発装填した銃を背負いナイフと鉈を確認するとウエストポーチから丸薬を取り出した。
「ブレア、ここで使うぞ………」
それは魔銃と共に遺されたブレアの最期の贈り物だった。
『森の恵み』と呼ばれるその秘薬はブレアの血を原材料に出来ている。この丸薬を飲んでから数分間、森の魔女と同じく迷いの森からの魔力の補助を受けほぼ無尽蔵の魔力が使えるようになる。
但し副作用としてその大量の魔力により使用者の肉体がオーバーヒートし、しばらく動けなくなるため、ここぞという時以外には使えない。
「よし!行くぞ」
勇輝は口に丸薬をくわえるとオークの群れに飛び込んで行った。
走りながら背負った銃を構えると勇輝は続けざまに引き金を引く。
捕まった人々の綱を引くオークが倒れ、それに引きずられるように繋がれた人が倒れる。
「そのまま伏せていろ!!」
勇輝が叫びつつ、次弾を装填しすぐに放つ。最初の攻撃で浮き足立ったオーク達も勇輝の叫び声を聞きつけ武器を手に勇輝に襲いかかった。
勇輝は更に2発撃ち、魔力を急激に消費した眩暈をこらえつつ銃を背負い直し、ナイフと鉈を引き抜く。
「さあ、かかってこいやぁぁ!!」
勇輝は口の中の丸薬を飲み込むとオークの群れに躍り掛かった。
丸薬が勇輝の体内に取り込まれた瞬間、勇輝は体内に物凄い力の奔流を感じた。
(これなら、行ける!)
その溢れる力に任せて更に加速した勇輝は振りかぶるオークの脇の下をくぐり抜けつつ脇腹の肋の隙間を切り抜け、続く別の一体は鉈で足首を切り落とす。
そのままの勢いで駆け抜け倒れている人々のそばまでたどり着いた。その通り道には致命傷では無いが行動に支障が出る場所ばかりを斬りつけられたオーク達が転がっていた。
(悪いがトドメを刺す暇は無いんでな………)
「立て!!急いで逃げるぞ!!」
勇輝は叫びつつ人々の首の縄を斬り落とし、気付いて近づいてきたオークに銃弾を撃ち込んだ。
「何をしている!立てよ!ロードは倒した、このままここにいたら死ぬぞ!」
しかし解放された人々は皆、暗い顔で立ち上がる気力も無いようだった。
「私達の事は放っておいてくれませんか………」
その中でも一番年上の女性(よく見ると全員女性だった)がか細い声で告げる。
「私達全員、オークの子を孕まされました。生きていても辛いだけなんです。このまま死なせて下さい」
そこまで言われて勇輝が周りを見渡すと捕まっていた女性達は全員お腹が大きくなっており、確かに妊娠しているようである。中には少女としか言えない者までおり、その痛々しい姿に勇輝は心が痛んだ。
「確かにこのまま生きるのは辛いかもしれない………」
勇輝が迫り来るオークに更に銃弾を浴びせながら何とか言葉を紡いだ。
「わかったならあなただけでも逃げて下さ……」
「しかし!!楽な道へ逃げるための死など俺は認めない!もっと生きたくても生きれなかった命を俺は知っている!!俺達が生きるために犠牲になってきた命も俺は知っている!!だからこそ俺達は最期の瞬間まで足掻き、もがき、生き抜かなくてはならないんだ!さぁ立て!!この先の事はこの場から生き延びてから考えろ!」
勇輝は確かに女性達の姿に心を痛めた。しかしそれ以上に人生に絶望したその姿に、その境遇に激怒した。その脳裏に浮かぶのは死ぬ前日まで笑顔で過ごしていた家族、リルを託して死んだ人狼の女性、そして最期までティナを心配していたブレアの姿が次々に浮かんでいった。
その無念を知っているからこそ勇輝は怒る。辛い生から逃げるための死に、そんな状態まで追い込んだ存在に。
勇輝の怒りによりその体からは解けかかった封印から獣王の魔力が漏れだし、結果怖じ気づいたオーク達は勇輝と女性達を遠巻きに眺め、その覇気に当てられた女性達は思わず立ち上がった。
「さあ行くぞ!!森まで走れ!!ロードが倒れるまで時間が無いぞ!」
勇輝が進路を切り開くように駆け出すと女性達もヨロヨロと走り始めた。
結果的には勇輝達は無事に森までたどり着いた。
オーク達は勇輝の魔力に当てられ近づく事も出来ず、森の中まで邪魔される事も無く、森に入りしばらく歩くと勇輝を心配して様子を見に来たティナとリルに合流した。ティナに女性達を預けた所で秘薬の効果が切れた勇輝は動けなくなりティナのゴーレムによって女性達と共に運ばれる事となった。
その頃オーク達はオークロードが倒れた事により一斉に近くのオークに襲いかかり同士討ちによって群れは壊滅した。僅かに生き延びた個体も軽くないケガをしており自然に淘汰されていった。
こうしてこの度のオーク大進行は終了した。




