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人狼

傭兵達と別れ、勇輝達は再び3人での暮らしに戻った。傭兵達が裏切らないかと神経を張った暮らしではあったが、いなくなった途端一抹の寂しさを感じつつ3人での朝食を食べる。


「ごちそうさまでした」


いつものように勇輝が手を合わせて食事を終えるとティナは不思議そうな顔をしていた。


「気になっていたんですけどユーキさんのそのお祈りって何なんですか?」


「ん?俺が生まれた国の風習でね。簡単に言えば食材だって元を正せば命だから、その命に感謝を込めてるんだよ」


「………命に感謝」


「そう、狩りなんかしていると特にそう思うんだが生き物は生きていく上で他の生物の命を奪わなくてはならない。それは人間の原罪だからね、止めることはできないからこそ、せめて糧となる命には感謝を捧げたいんだ」


勇輝は小さい時は適当に言っていたが、狩猟で初めて撃った鹿が冷たくなっていく際には涙を流し、その肉を食べる時には自然と『いただきます』と口をついていた。


「なるほど………素敵な風習ですね。私も今度からやってみようと思います」



「そうだねぇ、良いんじゃないかい?………ん?」


ブレアがいそいそと『ごちそうさま』を告げるティナを微笑ましく眺めながら首肯していると急に何かに気付いたように頭を上げた。


「森に誰か入ってきたね。悪意は無いみたいだが………ユーキ頼めるかい?」


ブレアが確認を求めた時には既に勇輝は立ち上がっていた。


「当然。それが俺の仕事だ」






勇輝はボーガンとナイフを持ち、マントを羽織るとその上に矢筒を背負った。


「さて、お客さんはどんな奴だ?」


装備を整えた勇輝は『梟の目』の前に立つと森を見渡し侵入者を探した。



「ん、これか………ケガをしているな」



勇輝が見つけた人影は明らかに重傷をおいながらも何とか歩く女性とその女性に抱かれる子供の姿、そして同じ方向から徐々に迫る数人の男達。


「………とりあえずケガしている方を助けるか」


勇輝は方針を固めると即座に転移した。






「ハァ………ハァ………クッここ、までなの?………何とか……何とか、あなただけでも、生きて………」


女性は気力のみで歩き続けていたがついに力尽き、崩れ落ちた。その背中には明らかに骨にまで達する切り傷と矢が数本刺さっている。普通ならとっくに死んでもおかしくない傷をおっているが最後の気力を振り絞り抱えた子供を草むらに隠そうとしている。


そこに勇輝が転移して現れた。


「あ、あ、あ………お、お願い、します。この子だけは、この子、だけは、助け、て下さい」


母親と思われる女性は突然現れた勇輝に驚きつつも子供を庇うように抱き寄せた。



「………わかった。とりあえず落ち着いて話せる所まで行こう。あなた達を追ってきた奴らが近くまで来てる」


勇輝は目の前の女性の警戒を解こうとできるだけ優しく語りかけた。


「では失礼して、少し揺れますよ」


女性が信用してもいいか躊躇っているうちに勇輝はさっと女性を子供ごと抱き上げると一番近い狩猟小屋まで走り出した。


女性は既に深く考えることも出来ないほど弱っていたためなすがままとなり、徐々に流れ出す血と低下する体温が勇輝を焦らせる。


程なく目的地の小屋に到着すると自分のマントを脱いで床に敷き女性を横たえると小屋に置いてある毛皮を上から着せて精一杯の保温をしてから包帯と傷薬を引っ張り出した。


(間に合うか………出血量は致死量だがとりあえず止血だけなら魔女の秘薬を使えば)


勇輝は取り出した傷薬を女性を横向きにして背中にありったけ振りかけた。するとみるみるうちに傷口からの出血は止まった。


「よし!これで何とか」


勇輝が喜んだ途端に気づく、目の前の女性が痙攣をし始めている事に。


「ヤバい、出血性のショックか!?どうする………俺には輸血だなんだは出来ないぞ」


目の前の女性の命が明らかに消えていくのを横目に勇輝は自分の無力さに愕然としつつもせめて何か出来ることはないかと考える。


「あ、の………お、願い、し、ます」


女性が震える唇で呟いた言葉、それを聞き取った勇輝は慌てて口元に耳を寄せる。せめて最期の言葉は聞いてあげようと。


「む、娘、を………リルを…守って、下、さい」


母親としての根性がなせるのか明らかに視線は定まらず、禄に考えることも出来なさそうな状態で、娘の安否を気遣った。


その娘を思う心は勇輝の若干歪んだ家族愛にも響く物があり即断で勇輝は頷いた。


「大丈夫、必ず守ろう。安心してくれ」


その力強く言い切る言葉が聞こえたかどうかはわからないが確かに女性は最期安らかな顔をして逝った。




勇輝は女性が亡くなったあとすぐにその女性の遺体を毛皮でくるむと子供を腕に抱き上げ、背中に女性を背負った形で家まで走った。




「ユーキさん、どうでしたか?」


家まで戻ると玄関先で待っていたティナが勇輝に駆け寄る。


勇輝はティナに状況を説明しつつ、背中の女性を下ろし毛皮を取った。するとそこには女性の姿は一切無く銀色の毛皮を持った美しい狼がいた。


「な!?どういうことだ?」


勇輝が愕然としていると家の中からブレアが現れた。


「珍しいね。その子は白銀狼だったんだね。要はワーウルフだよ、中でも白銀の毛並みを持つ者は容姿の美しさもさることながら類い希な身体能力と魔力を持つから金持ちや貴族がこぞって手に入れようとするのさ。どうやら産後の弱った所を狙われたようだね。可哀想に」


ブレアはそう言うと浄化の魔法を唱えて血に濡れた毛皮を綺麗にした。


「でどうするんだい?この子達を追ってきた奴らなら大分森の奥まで入って来ているが」


ブレアは勇輝がどういう行動にでるのか興味津々といった態度を隠さずに聞く。


「決まっている。この子は頼んだよティナ。リルっていうらしい。母親は戻ってきてからキチンとした墓を作るから待っててくれ」


そう言うと勇輝はボーガンを背負い直し、白銀狼に毛皮をかける。


「往ってくる」


勇輝はそう言うと殺気を抑えようともせずに『梟の目』の部屋に向かい、追っ手達の近くに転移した。




『梟の目』で確認したかぎり追っ手は5人。それぞれ剣や槍、それに弓で武装し、はぐれないように固まって一直線に勇輝が一時的に駆け込んだ狩猟小屋を目指している。


(どうやら目端が利く奴がいるようだな)


先頭を歩く男は地面に落ちた血痕や折れた枝などを頼りに確実に追跡を行っている。


(さて、殺るか)


既に勇輝にとってこの5人を殺す以外の選択肢は無くなっていた。


私利私欲のために家族を引き裂くような奴は皆死ねばいい。勇輝は本気でそう思う。


しかしそうやって内心荒れ狂う激情も押さえ込み、勇輝は冷静に狙いを定める。


まず最後方で後ろを警戒する弓使いを狙う。他は剣や槍など射程外から一方的に狙えるが弓だけは反撃の危険があるため先に潰そうと思ったためである。

勇輝は木の影からボーガンに矢をつがえ構える、集中し狙いを定めると一射で確実に目を射抜いて絶命させた。


そこからは一方的な展開であった。既にこの戦いを狩りと考え冷静に追い詰めていく狩人によって、自分たちが獲物になるとは露とも思っていなかった追っ手達は順番に射抜かれていき直ぐに森は静かになった。


「さて、帰るか」


矢を回収した勇輝は死体は獣に片付けてもらおうと放置し家に向かって歩き始めた。


その顔は初めての人殺しに対して悲壮感や罪悪感を全く感じさせず、むしろ清々しい顔つきであった。



夏風邪を甘く見ていたら肺炎起こしてダウンしてしまいました。皆さんも体にご注意下さい。


次話はもう少し早く更新したいと思います。

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