第8話 生まれる矛盾
私が、父から自分の意に沿わないことを強要されるように、
彼もまたそうなのだ。
周りが勝手に彼はこうだと決めつけて、それを望んでいる。
本当の彼の気持ちなど知りもしないで…。
自分のことを分かってもらえないのは、とても悲しいことだ。
そして、とても寂しい……。
「あなたを外見で判断する人が多いかもしれませんが、
決してそんな人達ばかりではないと思います。
ちゃんと、あなた自身のことを見てくれている人もいるはずです。」
自分と似ていると思うと、そう言わずにはいられなかった…。
「あなたは仕事ができて、とても優秀だと聞いています。
会社では、容姿ではなく、きちんと仕事ができる人が評価されるものでしょう?
あなたは、四條グループのご子息で、人目を引く容姿も持っているけど、
それだけでは優秀な人とは言えません。
そのように評価されるのは、あなたが頑張って努力しているのを、
見てくれている人がいるからだと私は思います。」
素直に思ったことを言った。
芸能界のような華やかなところなら、容姿が整っていればそれでいい。
しかし、社会に出て働くとなると、容姿が良いというだけでは通用しない。
頭を働かせて、迅速かつ完璧に仕事をこなすことが最も必要である。
四條グループのような大手の会社なら、なおさら求められることだろう。
彼は私の顔をじっと見つめていた。
お互いの間に沈黙が生まれる。
…しまった。
まるで彼のことをわかっているかのような言い方だ。
何も知らないのに、自分と似ていると思って勝手なことを言った…。
「…軽率なことを言って、すみません。」
「いや…少し驚いてしまった。
以前にも似たようなことを言われたものだから…。
気にしないでいいよ。」
そう言う彼は、私の言ったことで腹は立てていないようだ。
ひとまず安心した…。
「君はどうなの?」
主語のない質問に頭がはてなになっていると、
彼が「さっき君が言ったこと」と付け足した。
「“外見で判断する人ばかりではない”と言ったけど、
君は僕のことをどんな風に見てる?」
まるで、私を探るような視線だ。
この人に嘘は付けないと思った。
「あなたの容姿は目を引くものがあるので、
正直あなたを前にすると、その、何と言いいますか…、
緊張…?いや、委縮…??
とにかく変に意識してしまいます…。」
これまで、お目にかかったことのないようなイケメン相手に、
意識するなというのは無理だ。
出会ったばかりで、まだ彼の容姿に慣れていないのに、
彼の内面までを見る余裕は今の私にはない。
それに…私は彼との結婚を断ろうとしている。
結婚を断ろうとしている相手のことを、知る必要なんてない。
でも、私はさっき彼のことを“知りたい”と思った。
自分は矛盾してる…。




