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Amour éternel  作者: masaki
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第58話 向き合う親子



一皿ずつ料理が運ばれてくる。


色とりどりで目にも鮮やかな料理だ。


私はナイフとフォークを持って食べ始める。

完璧なマナーは知らないが、ざっとしたことなら学んだことがある。


見た目同様においしかった。

……違う。普通に料理を食べにきたわけではない。



「私に何の話があるんだ?」



先に父から切り出された。

どうも、私は話し出しが上手くいかない。

逆に相手から聞かれるほうが話しやすいが…。



「結婚の話なんですが、私、ちゃんと恭哉さんと婚約します。」



まず、一つ報告したかったことだ。



「そうか…良かった。きっとそれが一番いい。」



心なしか、父が笑ったように見えた。

いつもの私なら、政略結婚がまとまったことに喜んでいるのだろうと思うが、

今日は別の想いがあった。



「どうして、お父さんは恭哉さんを婚約者にしたのですか?」



何て答えるだろう…。

父の表情を読み取ろうと顔をじっと見る。



「彼は、お前にとってこれ以上ない相手だ。

彼は利益に関係なくお前と結婚したいと本気で思ってくれている。

そんな彼なら、きっとお前も幸せになれるはずだ。」

「お父さん…。」

「何か、恭哉くんから聞いたんじゃないか?」



さすが父だ…。勘がいい。






「…はい。彼の前にすでに私には婚約者が居たことや、

その他にも婚約者候補がたくさんいたことを聞きました。」



いずれも、私が知らなかったことばかりだった。



「その通りだ。何人かピックアップしていた。

そして、その中から最も良い条件だろう相手を選んでいた。」

「最も良い条件というのは、

会社が大きいとか家柄が良いとかということですか…?」



まわりくどく聞かずに、直球に投げかけた。

この方が、父も本当のことを言ってくれそうだと思ったからだ。



「…お前にそう思われても仕方ないだろうな。

政略結婚させることには変わりないんだから…。

それでもお前には幸せになって欲しくて、

できるだけお前のことを大切にしてくれそうな相手を選んでいたんだ。」



彼に聞いたことと同じだ…。


ただ単に、私の相手を選んでいたわけではなかった。


私の幸せを十分に重視してくれていたのだ…。



「私…お父さんがそんこと考えているなんて、思いませんでした…。」

「お前が知らなくても、

結果としてお前が幸せになってくれたらそれで良かったんだ。」



“私が幸せに…?”



娘に誤解されたままでも、よかったのだろうか…。






「お前に嫌われていると知っていた…。

話そうと思っても、いつも避けられていたしな。

でも、全ては私が悪いんだ…。」



いつもの、威厳に満ち溢れた顔とは違って、

なんだか弱々しく感じられる。初めて見る父の顔だ…。



「昔から、仕事ばかりでお前と話す時間さえなかった…。

ひどい父親だと思っていただろう?

会社では偉そうにしていても、自分の子供にはどうすることもできなかった。」

「…子供のころはずっと、私には父親なんていないのだと思っていました。」

「美緒…。」



これから言うことは父をもしかしたら傷つけることかもしれないが、

ずっと胸にしまい込んでいた気持ちだ…。


全部聞いて欲しい。



「…そう思っていたけど、やっぱり寂しかったんだと思います。

お母さんが居たときはまだ良かったけど、

居なくなってから、私はずっと一人ぼっちだった…。」



誰も居ない家に一人で居る…。



今はもう慣れてしまったが、子供の頃はたまらなく不安だった。



「どうして、お父さんは傍に居てくれないのだろうって、

思ってたんです…。

お母さんが居なくなってから、家に帰って来てくれて嬉しかったけど、

何の話をしたらいいのかわからなかったし…。

だから、避けてしまったんです。」



学校であった話をして父が聞いてくれるだろうか、

見たテレビのことを話してもいいだろうか…。


そんなことを考えると、話したくなくて、父を自然と避けていた。



「…そんな昔から、お前に寂しくて辛い思いをたくさんさせてきたのか…。

母さんにまかせっきりで、父親としては最悪だった。

もっと、お前たちの傍に居てやるべきだった…。

やはり事業を拡大なんてさせなければよかった…。」

「…事業の拡大?」



事業を拡大させることに、昔も今も力を注いできただろうに、

なぜそんなことを言うのだろうか?






「母さんと結婚した時、

仕事よりも必ず家族を優先させようと決めていた。」



父は遠い昔に想いを馳せているように、目を閉じる。



「お前が生まれてからすぐに、大きな取引が成功して、

会社が急成長すると途端に忙しくなった。家に帰れない日が多くなってな…。」



閉じていた目を少し開いた。



「これ以上会社を大きくして、家族との時間がとれなくなるよりは、

現状を維持するほうがいいと思ったんだ。

けど、それを母さんに言ったら叱られてな。」

「お母さんがですか…?」



遠い日の母はとても穏やかで、

いつも笑っていて私は注意されたことはあっても、

叱られたことなどなかった。




そんな母に父が叱られた…?


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