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Amour éternel  作者: masaki
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第57話 踏み出す一歩



彼に家まで送ってもらった。




自分で帰れると言ったのだが、

「もう暗くなったし、危ないから送る」と言われたら、

断るわけにもいかない。


しばらく車で走ると、家の前に着いた。


彼のマンションから私の家までは案外近いということがわかった。



「じゃあね、美緒。」



暗がりでも、彼が私に微笑んでくれているのがよくわかる。



「今日はお宅にお邪魔して、

それに帰りも送っていただいて、ありがとうございます。」



なんだか、いたれりつくせりで、彼に悪い。

お礼を言って、車のドアを開けると、「美緒」と呼び止められた。



「あと少しで、仕事が落ち着きそうなんだ。

そしたら、どこかへ出掛けないか?」



ハンドルに手をかけて、もたれながら私の顔を窺ってくる。

そんなふとしたしぐさにも、私はどきどきする…。



「…はい。楽しみにしています。」



きっと、彼と一緒に出かけられるところなら、どこでも楽しいだろう。

「また、連絡する」そう言って、彼と別れた。






玄関のカギを開けて、家の中に入る。


誰も居ないので、家の中は真っ暗だ。

部屋の電気を付けると、置時計の針が19時前にあった。


とりあえず、部屋着に着替えてテレビを付けて、ソファーに座る。



「今日は色々とあったなぁ…。」



彼には自分の気持ちを告げるだけで、

まったくその後のことなんて考えてもいなかった。


なのに、思いもよらないことが次々起こって…。




彼は昔から私のことを想ってくれていて、

それは今も変わらないと言ってくれた。


私は本当に幸せ者だと思う。

あんなに素敵な人にずっと想ってもらえるなんて、

たぶんこれからこの先、一生起きないことだろう…。


私が知らなかった、彼の気持ちもたくさん聞くことができた。

何も私が不安に思うことなんてなかったのだ…。


でも、こうやって、遠回りしたからこそ、

私も本当の気持ちを彼に伝えられることができたのだろう…。




あと…父の……気持ちも………。




まだ、本人から聞いたわけではないので、よくわからないが…。



“もっと前から、お互いがしっかりと話し合えていたら良かっただろうね…”



彼に言われたことが、頭の中を駆け巡る。



「話し合う…か…。」



今まで、父とちゃんと話したことなんて、一度たりともなかった。


何度か、父の方から話たい素ぶりを感じられたが、

私はそれに気づかないふりそして、無視をしていた。


どうせ、話したって分かりあえるどころか、

余計父との関係がこじれると思った…。


でも、私がもっと早くに父に向き合えたら、

もう少し親子らしくできたのだろうか?


本当に今からでも、まだ間に合うだろうか…?

わからない。


でも、せっかく彼が私たち親子に向き合うきっかけをくれたのだ。


こんな時でなければ、もう機会は訪れないかもしれない。

そう思うと、自然と手に携帯を持って、父にメールを打っていた。



メールアドレスは知っていたが、送ったことなどなかった。初めてだ。







“お疲れ様です。お父さんと話したいことがあるので、

もし時間に都合が着いた時に少しでもいいので、話させてもらえませんか?”



娘が、父親に送るメールとは到底思えないような、堅苦しい内容…。


普通の親子なら、もっとフランクな感じなのだろうか…。

私たちにはこれが当たり前だから、わからない。





父にメールを送信して、5分も経たないうちに返信がきた。


あまりにも、早いのでびっくりした。

忙しいからと、返信を後回しにされて結局忘れられるというパターンも想像していた。



“今、取引先との仕事が終わったばかりだから、今日なら大丈夫だ。

もし、夕食を食べていないなら、店で食事でもしながらにしないか。”



これから、何を食べようかと考えていたので、まだ夕食は食べていなかった。



“まだ食べていません。私はどこに行けばいいですか?”



父に返信をすると、すぐに返事が返ってきた。



“今から30分後に車をそちらに行かせる”



30分後…すぐだ。

せっかく部屋着に着替えたが、再び外出着に着替えた。

それから、簡単にメーク直しをして急いで外に出た。



ちょうど、迎えの車だ来たようだった。

私はその車に乗り込むが、父の姿がない。



「あの、父は?」と運転手さんに尋ねると、

「社長は取引先から直に向かわれました」と答えた。


本当なら、取引先からまた会社に戻る予定だったのではないだろうか?

なんだか、申し訳ない気持ちになる…。



40分程走ったところで、車が止まった。

車を降りると、店の外にフランスの国旗が掲げられていた。

フレンチの店か…。




店のドアを開けて、中に入ると店員さんが父の居る席まで案内してくれた。


椅子を引いてもらって席に着く。

父はさっそくワインを飲んでいた。



「お疲れ様です。突然すみません。」



正面に座っている父に対して、挨拶代わりに軽く会釈する。



「そんなに畏まらなくてもいいから、もっと楽にしなさい。」



そう言って、ワイングラスを手に持ち、口に運ぶ。




父が言うように、どうやら私は緊張しているらしい…。

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