第49話 偶然の出会い
あり得ないことが起きた。
彼が私のことを“好き”だなんて…。
今日の出来事の中で、この驚きは群を抜いている……。
「考えてもいませんでした…。」
というより、そう考えられるだけの知識や経験がなかった。
もし、裕子のように恋愛面が発達していれば、彼の気持ちにすぐ気付けた…?
「僕も、口にこそ出しては気持ちを伝えなかったけど、
言葉や態度で示してたつもりだよ…?
それが、全く意味のないことだったなんて…。」
言葉や態度で示してくれていた?
「そうでしたっけ…?」
「ショックだ…。あれだけ“結婚相手は君しかいない”、
“君だから結婚したい”と言ったのにな…。
それに、なるべく僕を意識してもらおうと、わざと接近したり…。」
私と結婚したいと言っていたのは、
裏を返せば“好きだ”と言っていたということ?
赤面するぐらい距離が近かったのも……??
そんな意図が隠されていたなんて…わからなかった。
「…あの射抜くような目も?」
「射抜く?そんな風に感じていたのか…。でも、間違ってはないな。
君を落とそうと画策していたんだから。」
私の心がざわついた出来事は、全て彼の私に対する想いだったようだ。
恋愛面に疎い私が、隠された想いまで読みとれるはずがない…。
“自分の気持ちだって、
裕子に導いてもらわないとわからないぐらいだもん…”
「すみません…。私にはハードルが高すぎでした…。」
「僕がちゃんと言わなかったからいけないんだ。」
彼は申し訳なさそうにそう言う。
「私、利益がらみの政略結婚だと思っていました。」
「うん…。まぁ、政略結婚には変わりないんだ。
君は、如月社長が僕以外にも、たくさんの結婚相手を探していたって知ってた?」
「いえ…知りませんでした。」
そんなにたくさんの相手を探していたなんて…。
父はどこまで、娘を仕事の道具として扱うんだ……。
「実は、僕の前にもうすでに君の婚約者は決まっていたんだ。」
「うそ…。」
「正しくは、決まりかけてた…かな?
そこへ、僕が無理やり割り込んだって感じだね。」
初めて聞く話ばかりで、頭がついていかない。
「君を写真で見つけて、他の奴に先を越されないように、
とにかく急いで、如月社長に結婚の話を持ちかけた。」
“そんなに、私を結婚相手にと望んでくれていたの…?”
彼の気持ちは本物だった。
それにしても…。
「何の写真を見たんですか?」
彼が偶然にも目にするような写真があったのだろうか?
「3年ぐらい前に、僕の父親の誕生日パーティーがあって、
それに出席したのを覚えてる?」
3年ぐらい前の誕生日パーティー?
そういえば…。
「出席した気がします…。父がどうしても行けと言ったので…。」
やむを得ず出席したことは覚えているが、主催者のことまでは覚えていなかった。
それが、彼の父親のものだったとは…。
「いつもは出席するんだけど、
その時はたまたま用事があって僕は出席していなかったんだ。」
「じゃあ、私たちはそこで会ってなかったんですか?」
今の流れだと、パーティーで会ったのかと思った。
「パーティーでは会わなかった。でも、つい3カ月前に出会ったんだ。」
3年前会わなかったのに、3か月前に会った?
ここ最近パーティーの類には一切出席していない。
「父が会社で使っている部屋の片づけをしていて、
偶然3年前のパーティーの写真が出てきてね…。
出席者全員の記念撮影のものだった。
何気なく見てたら、気になる子を見つけた…。
それが、君だったんだ。」
「たくさん居る人の中から、なぜ私を?」
記憶をたどると、かなりの人があの場に居たはずだ。
「ここで、君がもう一つ知りたがっていることが関係するんだ。」
「もしかして、昔会ったこと…ですか?」
この前、パーティーが開かれた家の中庭にある薔薇のアーチで昔出会った時のことだ。
それが関係するとは…。
彼は、体を私の方へ向けて、じっと見つめる…。
もう、これで私は彼に捕われて、動けない……。
「僕は、昔たった一度しか会ってない君のことを、
10年以上…ずっと探していたんだ。」