第48話 鈍感
「一息ついたことだし、さっきの話の続きをしようか。」
「続き…。」
「まだ、僕は君の質問には答えてなかったからね。」
そうだった…。
この家に来た目的を完全に見失っていた。
カフェでの話の続きをするために、来たのだ。
彼の本当の気持ちを知るために…。
「まず、何から話そうか…。」
腕を組んで考えているその仕草でさえ、私にはまぶしく見える。
本当に私はこの人の事が好きらしい。
だから、彼の思っていることを知りたい…。
「君は、“僕の気持ちがわからない”って言ってたけど、
あれって本気なの?」
いきなり核心に迫ってきた…。
この状況で冗談を言えるほど、私は器用ではない。
「…はい。前に恭哉さんは、
結婚相手は私でないといけないって言っていましたが、
その理由がいくら考えてもわからなくて…。」
なぜ、私である必要があるのだろう?
今日改めて、この政略結婚の意味がわからなくなった。
「……。美緒は、結婚ってどうしてするんだと思う?」
彼の気持ちを教えてほしいのに、
話は“結婚”についてに変わってしまった。
聞かれたので、仕方なく答える。
「好きな人とずっと一緒に居たいから…?」
人生を共に歩み、お互いの時間を共有するために“結婚”は必要だ。
誰に聞いても、私と同じ回答をするだろう。
「それがわかるんなら、簡単なことじゃないの?」
「…?」
「僕は君だから結婚したいって言ってる。」
「はい。それは知ってますが…?」
それとこれが、どう関係あるというのだろうか…?
さっぱりわからない。
「思っていた以上に、君は鈍いようだ…。」
彼は、がっくりといった感じで頭を垂れている。
それでも、私は彼が何を言いたいのかわからない。
思っていた以上に鈍いって…。
私が鈍いと、前から思っていたということ??
なんだか、ムッとしてしまった。
「自慢ではありませんが、
私はよく勘が冴える子だと昔から言われてきました!」
決して自慢ではない。
「僕も、君は人の気持ちを考えられる子だと思うよ。
でも…それもある部分では機能していないようだ。」
私が、機能していない部分??
そこで、以前裕子に言われたことを思い出した…。
“美緒は、恋愛面に疎すぎる”
“恋愛面”。
失念していた…私はそっち方面は未発達だった!!
「…それって、恋愛とかですかね…。」
「そう。」
いやいや、でもまだわからない。
恋愛面に疎いから、それがどうだというのだろう…。
「確かに、私は恋愛に関しては壊滅的ですが…。
そこが鈍いのと、どう関係が…?」
自分で言っていて、悲しくなる…。
「かなり手強いな…。仕事相手の方が上手くいく……。」
私は知らない間に、彼にとって強敵となっていた。
そんなに私はやっかいなのだろうか…!?
「君が鈍い恋愛部分を、さっきの話に補ってよく考えて。
どうして、結婚するのかって君に聞いたよね?
それで、君は何て答えた??
ここまで言えばさすがにわかるだろう…。」
「“好きな人とずっと一緒に居たいから”って言いまし…」
“好きな人とずっと一緒に居たい”……?
“好きな人”
「え~~~~~~!!!恭哉さんは私が好きなんですか!!!!」
「…良かったよ。やっと僕の気持ちに気付いてくれて…。
これでだめなら、絶望的だと思った……。」
興奮状態の私に反して、彼は沈んでいる。
嘘でしょ…?
この人が私を好きだなんて……。
信じられない………。