第46話 マンション
「……………。」
「美緒、コーヒーと紅茶どっちがいい?」
「じゃあ、紅茶でお願いします……。」
「なら、僕も紅茶にしようかな。」
“場所を変えよう”と言われて、連れてこられた場所…。
そこは……。
「何もない部屋でしょ。」
この言葉でもわかるように、今私は……。
彼の家に来ている。
なぜ、こんなことに…!?
カフェを出てから、彼の車に乗って移動することになった。
カフェではなくて、もう少し静かな店に行くのだとてっきり思っていたので、
どこに行くのかは聞かず、行先は彼に任せていた。
しばらく走ると、車が止まった。
「着いたから降りて。」
そう言われたので、車から降りた。
どんな店に着いたのだろうかと、周りを見回す。
どこにも店なんてない…。
着いた所は店ではなく、マンションだった。
「あの、ここは…?」
恐る恐る尋ねる。
もしかしたら、マンションの一室とかでレストランとか…。
「僕の家だけど?」
“それが何か?”という表情だ…。
「ですよね…。」
ははと苦笑いをする。
どう考えても彼のマンションだろう…。
よりによって、彼の家に来るなんて、想像できるはずがない。
確かにカフェよりは静かだろうとは思うが。
しかし、このマンション…一体何階建てなのだろうか?
マンションの1階部分から、目線を建物の上へと向けていくが、
危うく後ろにのけ反りそうになるぐらいの高さだった。
“でか…!!”
「美緒、こっち。」
彼に呼ばれて、マンションの中に入る。
“ここ…ホテルじゃないよね……?”
1階は、まるで超高級ホテルのようなロビーになっていた。
そして、普通のマンションではまずないであろう、
フロントが設けられている。
入口とロビーには屈強な警備員が居た。
私が呆気に取られていると、
「美緒?」とかなり遠くの方から声が聞こえた。
置いていかれないように、
慌てて追いついて、一緒にエレベーターに乗り込む。
…が、このエレベーターも普通ではなかった。
一体何階のボタンを押すのだろうかと、彼が指さす方を見てみる。
何かがおかしい…。
普通のエレベーターには、階ごとのボタンがあるはずなのに、
それがない。
そこには、“開”と“閉”ボタンしかなかった。
このエレベーターのボタンで、
どうやって自分の住んでいる階まで行くのだろうか…?
不可解な疑問はすぐに解決することとなる。
エレベーターが着いた先は、このマンションの最上階だった。
まさかとは思うが…。
「もしかして、今乗ったエレベーターは、最上階の人専用エレベーターですか…?」
「うん。僕しか使わないから、もったいないよね。」
“僕しか…?”
つまり、このマンションの最上階は彼だけの居住区で、
今乗ってきたエレベーターは彼専用のものらしい…。
四條グループを甘く見過ぎていた…。
ここまでだとは思わなかった……。
ほんの5分程の間に、こんなに驚くことがあるとは…。
家に入ってからも、まだまだ驚くことが山ほどあった。
一番は、この家の広さだ。
最上階のワンフロアだけかと思いきや、この家は二階建てだった。
うちの一戸建てよりも遥かに大きい。
大きな窓が付いていて、外の夜景を一望できる。
他にも家具は全てフランスの有名メーカーだったり、
何人前の食事を作るのかというぐらい広いシステムキッチンだったり…。
私は、彼の家の規模にただただ絶句した。
彼はやはり別世界の人間のようだ……。