第43話 落ち着かない時間
講義が終わって、私は駅前のカフェへとやってきた。
携帯の時計を見ると16:30だ。
かなり早く来てしまった…。
“先に店に入って、待っていよう”
ドアを開けて、店に入る。
もうお茶をするには時間も遅いので、店内には数名ほどしかお客が居なかった。
開いている席に着いて、ホットコーヒーを注文した。
あっという間に寒くなってきたので、
最近は温かい飲み物を注文することが多くなった。
程なくして、コーヒーが運ばれてきた。
ミルクを少し入れて、スプーンでかき回して、一口飲む。
それから、テーブルの上に置いていた携帯の時計を再び確認する。
“さっき見たときから5分ぐらいしか経っていない”
もうすぐしたら、ここへ彼がやって来る。
今日は朝からずっとそわそわしていた。
会って話したいことがあるとは言ったものの、
何から話せばいいのだろうか…?
前に会ったのが、あのパーティーだ…。
散々言いたいことを言って、彼を傷つけた。
まずは、そのことから謝るべきだろう。
しかし、彼が来てからいきなり謝るというのも…。
“もう少しワンクッション置いて、挨拶から始めよう”
“こんにちは”?
もう17時がくるのに、“こんにちは”では変だ。
じゃあ、“こんばんは”??
17時だと“こんばんは”になるのだろうか…。
今自分が考えていることは、しょうもないことだとは思うが、
最初をしっかりと掴んでおかなければ、進む話も進まない。
仮に“こんばんは”だとして…、次は…。
時候の挨拶か…?
“さわやかな秋となりましたが、いかがお過ごし…”
これでは、まるで手紙だ…。
何て言えばいいのだろう…。
挨拶一つでも、こんなに悩むなんて、私はよっぽど緊張している。
「美緒。」
「うぇっ。はいっ!」
どうしようかと考えていたら、急に声を掛けられた。
思わず声が裏返る。
まだ、約束の時間になっていないのに、彼は到着したようだ。
私の向かいの席に腰を下ろす。
店員が注文を聞きにきて、彼も私と同じホットコーヒーを注文した。
“まだ来ないと思っていたのに…!”
この期に及んで、心の準備ができていなかった。
すぐに、注文したコーヒーが来た。
私はコーヒーにミルクを入れる派だが、彼はブラックで飲むらしい。
…って、観察している場合ではない。
“まずは挨拶から…”
「君から、呼び出しのメールが来るなんて思ってなかった。」
自分から話出そうとしたら、彼が先に話出した。
シュミレーションしてきたことは、全く意味がなかったみたいだ…。
「すみません…。お忙しいのに、時間を作っていただいて…。」
申し訳ない気持ちが一杯になっていると、「気にしないでいいから」
と言われた。
「僕も君と話したいことがあったんだ。」
「そっ、そうですか…。」
彼が私に話たいこと…?
“もう、婚約の話は正式に破談になったから”とか、
“他の女性と婚約することになったから”とか…、
そういう報告をしたいのかもしれない。
少し怖気づいてきた…。
「君は、僕に何の話があったの?」
コーヒーカップを置いて、尋ねてきた。
実は、彼が来てから一度も目を合わせていない。
彼はちゃんと私を見てくれているのに、逸らしてしまう。
“もう逃げないって決めたんだから、ちゃんと目を見て話さないと!!”
なんとか、自分に喝を入れて彼の方へと視線をうつす。
彼は、相変わらずまっすぐで強い目をしている。
もう目が合ったからには、そらせない…。
弱い自分を奮い起して、正直な想いを伝えることにした……。