第42話 思い出される記憶
「だれもおにいちゃんのこと、みてくれないのはさみしいね。
でも、おにいちゃんをみてくれるひともいるんじゃないの?」
“つい最近、この台詞によく似たことを言った気がする…”
今は夢の中で、はっきりと思い出せない。
「みおはね、おとうさんがみおのことみてくれないの…。
でも、おかあさんはいつもいっしょにいてくれるの。
おにいちゃんは?」
「俺は…家族の皆はちゃんと俺自身のことを見てくれてる…。」
「よかったね!」
“本当によかった…”
過去の事とはいえ、この少年が家族さえも信じられていなければ、
あまりにも可哀想だ…。
傷ついていても、信じらる人が居ればまだ救われるだろう。
誰か一人でもいいから、自分のことをちゃんと見てくれていれば、
それでいいのではないかと、私は思う。
「おにいちゃんはひとりじゃないね。
みおも、ちゃんとおにいちゃんのことをみてるよ?」
「…今日初めて俺に会ったのに?」
「うん。みおとちゃんとおはなししてくれた、やさしいおにいちゃんだね!」
私を見て少年は、少し照れくさそうに笑う。
その顔はまるで…。
「わぁ!おにいちゃん、てんしみたい!!」
「天使?」
「すごくきれいだね!!」
暗い顔をしているよりも、笑っているほうがこの子には似合っている。
昔の私もそう思って、天使のようだと言ったのだろう。
「君と話していると、何か心が落ち着くな…。
嫌なことを忘れられるよ。」
「きみじゃないよ!みおはみおだもん。」
どうやら、ちゃんと自分の名前を呼んでくれない少年に、
腹を立てているようだ。
「そうだね。みお…。可愛い名前だ。
ありがとう。元気が出た。」
今度は、まぶしいぐらいの笑顔だった。
「おにいちゃんのおなまえは?」
そういえば、まだ少年の名前を聞いてはいなかった。
「俺?俺の名前は…。」
「美緒~!!」
少年が、名前を言おうとしたところで、遠くから父の呼ぶ声が聞こえた。
会場から居なくなった私を探しているようだ。
「おとうさんだ!はやくいかなきゃ!!」
父の声がする方へ、走って行こうとすると、
後ろから手を掴まれた。
「みお、俺の名前は…だから。」
「うん。わかった!じゃあ、またね!!ばいばい。」
父の元へと走り出した。
少年が私に名乗った名前…。
聞き間違いでなければ…。
“みお、俺の名前は恭哉だから”
そこで夢は終わって、私は眠りから目覚めた。
長い夢だった…。
そして…。
私が思い出せなかったことを、やっと思い出せた。
夢の中で出てきた少年は、おそらく…。
彼だ…。
「あんなに昔に出会っていただなんて…。」
思ってもみなかった。
夢の少年の顔と、この前のパーティーの時の彼の顔はよく似ていた。
以前彼に「私のことを何も知らないのに結婚できるのか」と、
聞いた時に、彼は…。
“君のことは知っている”
そう言っていた。
もしかして、昔に会った時のことを言っていたのだろうか?
なぜか、私は全く覚えていなかったが…。
彼は私のことを、覚えていてくれたのかもしれない。
どうして、こんな大事なことを今まで忘れていたのだろう。
あんな美少年と会っていれば、記憶に残っていそうだが…。
なんにしても、ずっと引っかかっていたことが解明された。
それでも、まだ気になることはある……。