第40話 夢の中
夕方になって、裕子は帰った。
私の話を親身になって聞いてくれて、とてもうれしかった。
自分ではどうにもならない悩み事も、
人に聞いてもらえば楽になるし、解決への糸口も見つかる。
私は携帯を手に持って、メールを打っている。
宛先は…彼だ。
“美緒です。ご無沙汰しています。
お話したいことがあります。
いつでもいいので、少し時間を作っていただけませんか?”
「送信…っと。」
このメールを見てくれるだろうか?
もしかしたら、私のアドレスを削除していたり、
着信拒否にしていたりするかも…。
メールを送ってから、1時間程経ってから携帯のバイブが鳴った。
開いてみると、彼からの返信だった。
「返事…返ってきた…。」
良かった。
返事自体が来るかどうかわからなかったから…。
“わかった。
明日なら大丈夫だから、最初に行った駅前のカフェに17時でもいい?”
あの駅前のカフェか…。
“17時で大丈夫です。
お忙しいのに、無理を言ってすみません。”
彼に返信する。
明日か……。
彼は、私が一体何の話をすると思っているだろうか…?
夕飯を食べ、入浴した。
それから、しばらくテレビを見ていたが、
眠くなってきたので就寝することにする。
眠りに付く直前まで、彼のことを考えていた。
明日、私の気持ちを伝えたら彼はどんな顔をするだろうか…?
不安で仕方ないが、自分の気持ちを正直に伝えよう……。
今日は、珍しく夢を見た。
夢に出てくるのは、小さな子供の自分。
パーティードレスを着ている。
“あのドレスは、母が亡くなる前…。確か私が6歳頃に着ていたものだ”
滅多に着ることができないドレスを着て、
鏡の前でくるくると回り、うれしそうにしている。
そこに、父がやってきた。
私の手を取って、車に乗せる。
母はどうやら家で留守番をするようだ。
そういえば、昔は父と一緒にパーティーへ出かけることがよくあった。
小さな私は、車窓から流れる景色を興味深そうに見ている。
しばらく車で走ると、とても大きな家に着いた。
“あれ…?この家って…”
父と手を繋いで、広い家の庭を歩いて玄関へと向かう。
その庭は様々な花が丁寧に植えられていた。
「あのバラかわいい!」
「見事なものだな。」
父と私は、目の前にある薔薇のアーチの前に居た。
“やっぱり!この前のパーティーでお邪魔した家の庭だ…。
薔薇のアーチはこの家で見たんだ。
前にも来ていたことがあったのか…”
場面は変わって、パーティー会場へと移る。
私は、おいしいご馳走に目を輝かせていた。
「美緒。お父さんは挨拶してくるから、
お前はここでごはんを食べていなさい。」
「はい。」
そう言うと、父は一人どこかへ行ってしまった。
私は特に気にすることもなく、一人で黙々と食事をしている。
「おいしい!」
小さい子供ながら、相当食べている…。
私は昔から食い意地が張っていたようだ…。
しばらくしてから、私は食事を止めて外に出る。
向かった先は、先ほど見た中庭のようだ。
勢いよく走って、薔薇のアーチの前まで行く。
「かわいい~!」
小さな自分の背丈よりも、
はるかに大きい薔薇のアーチを見上げる。
“前に思い出した場面は、ここだったんだ”
薔薇のアーチをくぐって遊んでいると、
近くにあったベンチに誰かが座っていることに気付いた。
ベンチの方を見てみると、
そこにはまるで天使のような可愛らしい男の子が居た。
顔を見るだけでは、男の子か女の子か判断できないが、
ネクタイをしてズボンを穿いているのだから、おそらく男の子だ。
年は、6歳の私よりも、4~5歳年上に見える。
“すごく可愛い男の子…。でも、なんか見たことある気がする。”
その少年は、笑うと更に可愛いだろうが、
なぜかとても暗い顔をして、俯いていた。




