第3話 婚約者
驚いた…。まさか追ってくるなんて思っていなかった。
それよりも……。
今、初めて四條恭哉の顔を見たが、
テレビに出ている人気の俳優やアイドルなんかよりも整った顔立ちで、
一言でいうとかなりの美形だった。
切れ長の目だが、はっきりとした二重で、
鼻立ちもすっきりしており、薄い唇はどこか艶やかで、
大人の男の色気が醸し出されている。
天は二物を与えないというが、彼は例外だと思った。
優秀であるとは聞いていたが、容姿も完璧だった。
私は思わず彼に見とれる…。
しかし、うっかり見とれている場合ではない。
急いで、彼の顔から視線を外す。
何か話さなければと考えるが、思い浮かばない…。
「時間があるなら、少し話をしない?」
「話…ですか…。」
ようやく口から出てきた言葉はたどたどしかった。
当然だ。
今まで見たこともないような美形を前にして、
まともに話せるわけがない。
「さっきは、話もできなかったからね。」
そうだった…さっきはこの麗人を完全無視していた。
一言謝るべきか。
「あの、さっきはすみません。
とても失礼な態度をとってしまって…。」
私が深々と頭を下げると、「いいから頭をあげて」と言われた。
年下の生意気な女にないがしろにされたというのに、
彼は気にしていないようだった。
「事前に知っているものだと思っていたんだけど、
あの時初めて結婚のこと知ったんでしょ?
なら、仕方がない。」
彼が言う通り、初めてあの場所で結婚のことについて知ったのだ。
おそらく、父は事前に言ったら、
私が食事をすっぽかすと思ったのだろう。
まぁ、そうするだろうが…。
「父が勝手に決めてしまっていたんです。
私、全く知らなくて…。
だから…その、今回の結婚の話、一度白紙に戻していただけませんか?」
もう決まってしまったことだと思って半ばやけになっていたが、
冷静に考えてみれば、話は結婚である。
なぜ、あの時冷静さに欠いていたのか…。
あまりにも横暴な父の行動に心底腹が立っていたからだろう。
学校なら気に入らなければ変わって、一からやり直しもできる。
でも結婚するとなると、そう簡単に離婚することなんてできない。
ましてや政略結婚ならなおさらだ。
この人も、こんなに格好いいのだから、無理に私でなくても、
他の金持ちの美女と結婚したほうがいいに決まっている。
それに、いくら格好よくても、
相手のこともよく知らないのに結婚なんて考えられない。
何にしても、私が結婚したくないと言えば「じゃあ、他探すか」、
的なことを考えてくれるかもしれない。
彼だって、結婚を嫌がっている女よりも、
喜んで結婚する女の方が気分的にもいいだろう。
「結婚はもう決まったことだよ。
今から白紙になんて戻すことはできないから。」
「え…?」
思っていた答えとは異なっていた。
“私が嫌がっていると知っても、結婚するって言うの?なぜ……??”
「君が嫌だろうとなんだろうと、必ず僕と結婚してもらう。」




