第37話 後悔
彼の横に居る女性…。
その人はかなりの美人だった。
スーパーモデルのようにスタイルが抜群で、
手足が長く、顔が小さい。
品がある美しさが感じられる。
彼の隣に居ても、全く引けを取らないぐらいの存在感があり、
彼と共に道行く人々の視線を集めている。
まるで絵に描いた様な二人だ…。
百貨店の外で仲睦まじく話をしている。
二人で買い物に来ていたのだろうか?
彼は、手にショッピングバッグを何個も持っている。
あの女性はきっと、彼の“恋人”だろう…。
彼にとって、特別で大切な恋人…。
二人の様子を見れば、そう思う。
そうか…。
恋人が出来たのか……。
あれから一週間だ。
彼は次の出会いを見つけて、前へと進んでいるのに、
私は一週間経っても、まだ一歩も前に進んでいない。
それどころか、日々後退しているようにさえ感じられる。
“あの時こうすれば良かった、こう言えばよかった”と、
もう戻らない時間をいつも考えて嘆いている…。
自分から望んで出した答えを悔やんで、傷付いているなど、
なんて自分勝手な人間なのだろうか。
二人は迎えに来たであろう車へと、乗り込もうとしている。
エスコートをして先に女性を車を乗せた。
続いて彼が乗ろうとしたところで、彼が顔を上げる。
急にこちら側を見た。
道を挟んでいるとはいえ、よほど目が悪くない限りは、
肉眼で顔が確認できるぐらいの距離である。
私は、さっきからずっと外を見ていたので、
すぐに彼だとわかったが、まさか彼がこちらを向くとは思ってもいなかった。
目が合った瞬間に、私は急いで商品の物陰へと隠れた…。
たまたま目が合っただけで、何もやましい事などしていないのだから、
別に彼から隠れなくてもよかった。
でも、反射的に身体が動いてしまった。
“びっくりした…”
彼と目が合うなんて…。
心臓が激しく跳ね上がり、勢いよく暴れ出す。
“動揺するな…落ち着け…!!”
必死でそう自分に言い聞かせるが、
私の身体はなかなか言うことを聞いてはくれない。
“そうだよね。
これから、今みたいに、偶然に会うこともあるかもしれないんだ…”
その度に、動揺しているようではいけない。
いつまでも彼に捕われたままでは…だめだ……。
私達の距離は確かに離れたはずなのに、
彼はまだ私の心を掴んで離してはくれない…。
がんじがらめに絡めとられて、私は身動きが出来ない。
ああ…。
まだ私は、彼のことを…忘れられそうにない。
何かをして気を紛らわしていても、彼を目にすれば、
私の全てはいとも簡単に持っていかれてしまうのだ。
彼に出会うまでは、誰かに縛られることなく、
自由に生きたいと願っていたはずなのに、今は全然逆の事を思っている。
周りから決められても、それでも彼の隣に居たいと…。
例え、政略結婚でも構わない。
私の独りよがりでもいい。
彼と一緒に居られるのなら、それ以上多くを望んだりはしない。
だから…。
“私はあなたの側に居たい”
今さら、自分の本当の気持ちに気付くなんて…、ばかだ。
あまりにも遅すぎた…。
ずっと気付かなければよかったのに、どうして…?
どのみち、もうこれは口に出してはいけない想いだ…。
それなら、私は心の奥にその想いをしまい込んで、鍵を掛けるしかない。
それで、彼とのことは忘れよう。
(だから…どうか、あなたから解放してください…)