第30話 遅れてきた客人
その男達は見たところ、私と対して年が変わらない。
今日のお客さんの子息達だろう。
なんだか遊び人という感じがして、私の嫌いなタイプの人種だ…。
「君って如月社長の娘さん?」
一人の男が話かけてきた。
「はい。そうですが、何か?」
父にではなく、私に用事だろうか…。
「下の名前を教えてよ。」
別の男が、図々しくも名前を尋ねてきた。
なぜ見知らぬこの人達に、名前を教えなければいけないんだ?
それに、名前を聞くにしても、聞く前にまずは自分から名乗ると、
教えられなかったのだろうか?
しかし、もし父の会社と関係がある人達だといけないので、
無視するわけにもいかず、「美緒です。」とだけ答える。
せっかく、食事だけでも楽しもうとしていたのに、何を邪魔してくれるんだ。
気分が下がる。
そう思っていると、最初に話し掛けてきた男が
「俺らとあっちで一緒に飲まない?」とヘラヘラ笑う。
…酔っ払いじゃないか。
私は未成年なので、この会場内で飲めるものといったら、
ジュースかお茶か水ぐらいだ。
そんなものを彼等と飲んでもおいしくもないし、楽しいはずがない。
例えお酒が飲めたとしても、一緒になど飲みたくはない。
「すみませんが、私はまだ未成年なのでお酒は飲めません…」
「いいじゃん。ちょっとぐらい飲んだって大丈夫だからさぁ~」
断ったが、全くおかまいなしだ。
私の腕を引っ張ろうとしたところで、突然会場内にざわめきが起こる。
周りのお客さんが会場の入口を見るので、
私もつられてそちらを見てみる。
そこには、二人の男性が居た。
そのうちの一人は、確実に見覚えがある。
「恭哉さん…。」
パーティーが始まった時には彼の姿が見えなかったので、
てっきり今日は出席しないと思っていた。
けど、やはり来たのか…。
彼と一緒にいる中年の男性は、彼の父親の四条社長だろう。
初めて彼の父親を見たが、彼に良く似ている。
おそらく、昔は今の彼のように、とても格好良かったはずだ。
二人は、主催者の社長さんに挨拶をしているようだ。
私は、その光景を少し離れた場所から見る。
彼は、こんなにたくさん居る人の中でも、やっぱり存在感がある。
周りの人達が皆かすんでしまうぐらい、私には彼がまぶしくうつる。
社長さんとの挨拶が終わったようだ。
そして、何人かに軽く挨拶をしながら、
少しずつ、少しずつ、こちらに近付いてきているような気がする。
「おい、四条恭哉だ…。あいつ、こっちに来るぞ…」と、
危うく存在を忘れるところだった先程の失礼な男達が、
ヒソヒソと話している。
私は、すぐ隣に居る男達なんかよりも、彼が気になる…。
どこに居ても、何をしていても彼へと目がいく…。
彼が目で私を捉えると、迷わず私の方へとやって来る。
“やめて…こっちに来ないで…”
私を見据えたまま、一歩、二歩と近付く。
“その目に見つめられるだけで…”
「美緒。」
私の前まで来て足を止める。
“その声を聞くだけで…”
「こんばんは。」
まるで私だけのためにあるかのような優しい笑顔。
“私の全てがあなたで一杯になるの…”




