第28話 パーティー
あれから、あっという間に日にちが経った。
気付けば、もうパーティーの当日だ。
父に「17時半に迎えに行く」と言われている。
そろそろ支度をしなければ…。
父の秘書の人が用意してくれたパーティードレスは、
薄いピンク色のとても可愛らしいものだった。
胸元やスカートの裾部分に、レースが付いている。
強調し過ぎないように、バランスよく付けられていて、
可愛らしさの中にも上品さがうかがえる。
非常に私好みだ。
父の秘書にしては、なかなかセンスがあるなと思った。
派手にならなように、化粧をして、髪も軽くハーフアップにまとめる。
ネックレスなどの小物も用意してくれていたようで、
それも、また私好みだった。
姿見で、全身を確認する。
“まぁ、こんなもんか”
ドレスや、小物類のセンスが良いので、若干いつもより自分が可愛く見える。
所詮、自己満足かもしれないが…。
そうこうしていると、家の前に車が止まった気配がした。
父が迎えに来たのだろうと思って、家を出る。
外に出ると、一台の車が停まっていた。
父のお抱え運転手さんが、運転席から降りて、
後部座席のドアを開けてくれる。
ドアぐらい自分で開けれるが…。
そう思いながらも、お礼を言って車に乗り込んだ。
父がすでに乗っていた。
「お仕事お疲れ様です。」
一応、労っておく。
「そのドレス良く似合っている。」
珍しくも、父に褒められた。
褒めることもできるんだと少し驚く。
「ありがとうございます。」
「死んだ母さんに似てきたな…。」
本当に、珍しい…。
母の話をするなんて……。
外を見ながら、物思いにふけっているようだ。
母のことでも思い出しているのだろうか?
母が亡くなっても、父はあまり母の話はしなかった。
本より、仕事に忙しく滅多に家に居なかったのだから、
一緒に母を懐かしむ思い出もほとんどない。
母は、なぜ父と結婚したのだろうか?
家庭も顧みないような人と結婚して、果たして幸せだったのか…。
昔、母に「おとうさんがいなくても、おかあさん、さみしくないの?」
と聞いたことがあった。
母は確かその時…。
「少し寂しいけど、離れていても、
ちゃんとお父さんとお母さんは愛し合っているから、
大丈夫よ。」
そんなことを言っていたはずだ。
私には見えない何かで、
二人はつながっていたのだろうか…。
離れている時間なんて、
気にもならない程お互いを想い合っていたのだろうか…。
母が居ない今、もはや知る由もないが…。
母に想いを馳せていると、どうやら目的地に到着したらしい。
「ここは、取引先の社長さんのお宅だ。
今日は、たくさんのお客人が居るようだから、
挨拶はしっかりしなさい。」
子供じゃないんだから、言われなくても、
愛想笑いのおまけ付きで挨拶ぐらいできる。
さっきまで、何かを思っているようだったのに、
すっかり、いつも通りの父に戻っている。
どうせ、さっきも仕事のことでも考えていたのだろう。
パーティーで取引先にどうやって媚を売ろうとか…。
そんなことに必死になるなんて、実に馬鹿げている。
車を降りると、そこにはとても大きな洋館があった。
自宅というよりは…ホテル?
“このお宅は一体何人家族なんだ?”
心の中で、ツッコミを入れる。
それぐらい、立派な家だった。
私の家も、結構大きい部類に入るだろうが、そんなのは比じゃない。
きっと、この家なら相当のお客さんを招待できるだろう。
父と一緒に玄関まで歩く。
普通の家なら玄関まで30歩程で辿り着けるが、
どう見積もっても200m以上はある。
規模が違う…。
門から玄関までは、庭になっていて、
たくさんの花がきれいに植えられている。
庭師か何かが、きちんと手入れをしているのだろう。
じゃないと、一家総出で手入れしないといけないほどだ。
庭の中程まで来たところで、庭の奥にある、
薔薇のアーチが目に入った。
こういう家なら、そんなものの一つや二つあってもおかしくはないが、
なぜか気になった。
…というよりも、見覚えがあるような気がした。