第27話 踏み出せない自分
好きになりかけているだけで、まだ彼のことを好きにはなっていない。
裕子はよく私のことがわかるな…。
「好きになりかけてるんなら、もう確定させちゃいなよ!」
簡単に言ってくれるが、そんなこと…。
「彼のことを好きになったとして、
もしあっちが私のことなんて、何とも思っていなかったら?
私だけが彼のことを好きになったままなの?」
完全なる片思いだ…。
振り向いてくれない人のそばに、すっと居なければいけないの…?
それで、彼に好きな人でもできてしまったら…?
私は黙って見ているしかないじゃない…。
辛すぎる……。
「美緒の気持ちはわかるよ。
自分だけ好きになっても、相手が好きになってくれなきゃ意味ないもん。」
裕子は心配そうな目をしている。
「でもね、それじゃあ前には進めないよ?
自分の気持ちを封じ込めておいても、苦しいだけだよ?」
自分の気持ちに知らないふりをしていれば、
これ以上苦しい思いをしなくてもいいのだと思っていた。
“ちがうの?”
「恋愛の最も難しところだよね…。
お互いが好き合っていれば、何の問題もないけど、
そんな上手くいくことばかりじゃないからね。
美緒は…特に家の都合とかがあるし…。」
だから、踏み切れない。
初めての経験で、どうすればいいのかもわからないし…。
これまで、避けてきた問題に直面してしまった。
「こんなもやもやした状態で、彼とは会えないよ…。」
土曜日のパーティーで会ってしまったら…。
「だめだめ!考えても仕方ないよ!
恋愛なんて、考えてもどうにかなるものじゃない。
意識せずに、勝手に行動しちゃうんだから、
自分のやりたいようにやらせてあげなよ。」
私も、裕子が言うようにできるだろうか?
余計なことなど考えずに、心の赴くまま…。
政略結婚なんてものがなければ、もっと楽に考えられるだろうに…。
「いっそのこと、聞いちゃえば?“私のこと好きなの!?”って。」
真面目な顔で何を言うかと思えば…。
聞けたら、苦労しない。
「聞けるわけないじゃん。自意識過剰すぎる。」
どれだけ、自分に自身のある女なんだって思われるだろう。
分不相応にも程がある。
「まぁ、そうだよね。
う~ん…。私、彼は絶対、美緒のことが好きだと思うけどなぁ。」
また、突拍子もないことを言い出した。
「適当なこと言わないでよ~。」
根拠もないのにそんなこと言われても信用できない。
「話で聞くと、すごく大切にされてるみたいだし。
それに、前に大学で会ったときも感じたんだけど、
美緒を見る目が優しいっていうか、なんかこう…、
政略結婚するだけの相手にあんな目をするかなって。」
裕子にはそう感じたのか…。
見られるこっちとしては、いちいちどんな感情をした目かなんて確認できない。
あの人を相手にして、そんな余裕があるはずない。
なんにしても、私のことをどう思っているかなんて、
彼にしかわからない…。
そうして、結局振り出しに戻ってしまう…。
裕子に長いこと話を聞いてもらったが、問題は何一つ解決できなかった。
裕子も「良いアドバイスができなくてごめん」と、
気にしていたようだったが、やはり人に話を聞いてもらえるだけでも、
気持ち的にはずいぶんラクだ。
“最近、裕子にはお世話になりっぱなしだなぁ…”
今度、何かお礼をしなければ…。
「“自分のやりたいようにやらせてあげる”…か…。」
自宅へ帰りながら、裕子との会話を反芻してみる。
「私はどうしたいの…?」
自分に問いかけてみても、何の返事もなかった……。