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Amour éternel  作者: masaki
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第25話 気付かないふり



家に帰ってきたら、ちょうど18時だった。


朝の10時半頃から出掛けて、もうこんな時間になっているなんて思わなかった。


以前、カフェでお茶をした時の方が、時間は短いはずなのに、

その時よりも時間の経過が早く感じられた。





今日も緊張はしていたけど、彼と普通に会話することができた。

彼との会話を楽しんでいた。



少し慣れたのかも…。

正確には耐性が付いたというか……。



でも、たまに見せるあの艶っぽい態度には、

どう対処していいのかわからない。


彼のああいう行動には、慣れない…。






逃げられないように視線で縛りつけて、接近し、

甘い言葉を囁いて誘惑する…。






“誰に対しても、あんな風にするの?”



ふと、そんな考えが浮かぶ。


彼ぐらい素敵な男の人なら、意味ありげな視線を向けるだけで、

簡単に相手の心を揺さぶれる…。


例え、彼にそんなつもりがなくても、

“自分は特別だ”と勘違いする人もいるかもしれない。





“そんなの……!!”






…………。

その後の言葉は…?




いつもの私なら“そんなの、私には関係ない”

と思って流すだろう。


だけど、今の私は…。







“そんなの、嫌だ…!!”







そう思った。

なぜ…??


自分でも説明できない感情…。




違う。

本当はわかっている。


わかっているけど、わからないふりをしているだけ…。



一度自分の気持ちに気付いてしまったら、もう引き返せない。

きっと、自分でもその気持ちは止められない…。


今でさえ、こんなにも胸が締め付けられるように苦しいのに、

もっと苦しくなる…。



知らない自分を知るのは、とても不安で、怖い…。


だから…。






気付いていないふりをしよう…。

それが楽だから……。








かばんの中の携帯のバイブが鳴る。

メールだ。



「恭哉さん…。」



“今、家に着いた。今日は時間を作ってくれてありがとう。

君との距離が少し縮まったって思うのは、

僕の自惚れではないよね?また、連絡するから。”




この人は、こんな文章でさえ、私の心をいとも簡単に揺さぶる。




また、胸が痛む…。







どうして私なんかのことを、気遣って、思ってくれるの?

どうして優しくしてくれるの…?


私が政略結婚の相手だから?

それとも……。



“あなたの気持ちがわからない…”



知りたいと思ったのに、今は知るのが怖い。







玄関のドアが開く音がした。

父が帰ってきたのだろう。



「美緒、来週の土曜の夜はスケジュールを開けておきなさい。」



リビングのドアを開けると、開口一番にそう言った。



「土曜の夜に何かあるんですか?」



また食事なら断りたい…。



「取引先の会社が設立記念パーティーを開くんだが、

そこの社長さんが、お嬢さんと一緒にどうぞと言っている。

せっかく、そう言ってくれているのに断るわけにもいかないからな。

お前も出席させてもらいなさい。」



面倒なことになった…。


私はパーティーが苦手だ。

あんなのに参加して一体何が楽しいというのだろうか。


子供の頃はおいしい料理が食べられるからと、

行くこともあった。


最近は、忙しいとか理由を付けて断っていたが…。

先にもう承諾しているなら、行かないわけにいかないだろう。


私が出席したところで、特にすることもないのに…。

行く意味があるのか、甚だ疑問だ。




私が嫌な顔をしているのを見て、父はため息を付いた。



「当日までに、秘書の子にお前の服などを用意してもらうから、

それに似合うように、今みたいな顔を止めて笑っていなさい。」



言い終わると同時に、父の携帯が鳴った。

仕事の要件のようで、帰ったばかりにもかかわらず、

慌ただしく出掛けていった。



笑っていろだなんて…。

おかしくも、楽しくもない場所で笑えるものか。




取引先のパーティーか…。

ということは…。



「恭哉さんも来るのかな…?」



しばらく彼には会いたくはないな…。

どうすればいいのかわからないのに、彼を前にするとよけい混乱してしまう…。




そう思うと、ますます行くのが憂鬱になった…。

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