第22話 海でのドライブ
それから、何だか気まずい空気になってしまった。
何か言わなければと思うが、何と言えばいいのかわからなかった。
食事を済ませて、会計をするためにレジに向かう。
私がかばんから財布を出そうとすると、「僕が出すから」と言われた。
反論するわけにもいかないので、ご馳走になった。
店を出て、彼の車に乗り、
「どこか、ドライブでもしようか」と彼が言ったので、車を走らせる。
そのまま1時間程走ったと思うが、その間も沈黙が続く…。
車が、海岸沿いの駐車スペースに停車した。
“さっきから、何も話さない…。やっぱり怒ってしまったのかも……。”
それでも、ちゃんと言っておかないといけないと思って、
彼の腕をぐいと引っ張った。
「あのっ!確かに、恭哉さんの顔を見ると緊張してしまうけど、
外見で判断しているとかではありません!!」
自分の本当の気持ちだ。
誤解されていると思うと嫌だった…。
何だか、今日は彼に弁解ばかりしている気がする。
彼は一瞬びっくりしていたが、すぐに笑顔を見せた。
「うん。わかってるよ。」
「えっ?」
「もしかして、僕が怒っていると思って、ずっと気にしていたの?」
「う…。はい……。」
「てっきり、気分が悪くなったのかと思った。」
だから、私に気を使ってあまり話かけなかったようだ。
「美緒は僕のことを、外見で判断するような子じゃないって。
ちゃんとわかってるよ。」
そう言って、彼は微笑んだ。
よかった…ちゃんとわかってくれてた。
「でも、君が僕の外見に意識してるって聞いて、嬉しかったんだ。」
嬉しい?怒るんじゃなくて?
外見で判断されることを嫌悪しているのに…??
どういうことだろうか。
「こんな煩わしいばかりの外見でも、君に意識してもらえてるって思うと、
この容姿に生まれてきて良かったなって。」
あぁ…もう…。
どうして、そんなこと平気で言えるんだ…。
冗談でも言わないで欲しい。
顔から火が出る……。
「顔が赤いよ?」
私が赤面していたら、“車の中暑い?”と、見当違いなことを言っている。
誰のせいだと思っているんだ…。
「恭哉さんが照れるような、恥ずかしい冗談を言うからです。」
なるべく顔を見られないように、下を向いた。
きっと、耳まで赤いと思うけど…。
「冗談じゃないよ。」
本気なら、尚更この人性質が悪い。
天然でこんなこと言うなんて。
「僕はこの外見で良い思いをしたことなんて、ほとんどないからね。」
「そうなんですか?学生の時とか友達たくさん居たんじゃないですか?」
目立つから、友達がすぐにたくさん出来そうだ。
それに、学生時代とかめちゃくちゃモテて、女の子をはべらせてそう…。
「仲の良いやつは居たけど、
それ以外の人は、やっぱり信用できないって感じだったな。
ここまで来ると人間不信かもしれないね。」
自分がその人達に必要にされているのか、きっとわからなかったんだろう。
彼の周りにたくさん人が集まっていても、
“本当の自分を見てくれているのか”と不安だったんだ…。
そう思っていると、彼は私を見つめ、手を伸ばしてきた。
“なに…?”
すると、私の胸の下辺りまで伸びている髪を、
ひと房すくい取りそれを指に絡めた。
「僕はね、自分の人生に、多くの人間は必要じゃないと思ってる。
上辺だけの関係なんていらない。」
まっすぐな彼の目が、私の動きを停止させる。
しかし、私の鼓動は速さを増す…。
「本当に自分に必要な人だけが、傍に居てくれたらそれでいいんだ…。」
指に絡めた私の髪を口元に持っていき、小さなキスを落とした。
まただ…。
この場から逃げてしまいたいと思う……。
でも、逃げられない………。