第21話 緊張のランチ
車で20~30分行ったところに、その店はあった。
“隠れ家”という言葉がぴったり合いそうで、
場所もあらかじめ把握していないと、
迷ってしまういそうなぐらいわかりにくい。
車から降りて店のドアを開けようとすると、
後ろから手が伸びてきた。
「お先にどうぞ」と言って、彼がドアを開けてくれる。
あまりにも自然なエスコートで、
“もし執事が家に居たらこんな感じかな…”と想像してしまった。
店内へ入ると、わかりにくい場所にある店にも関わらず、
何組かお客さんが居た。
一番奥の席に着いてからメニューを広げて、
サラダやパスタ、ピザなど、取り分けて食べれそうなものをいくつか注文する。
店内は余計な装飾品がなく、クラシック音楽がBGMとして流れている。
席と席の間隔が他の店よりもかなり広めなので、
ゆったりとして落ち着いた雰囲気だ。
「結構良い店でしょ?」
私が店内を見回していると彼が声を掛けてきた。
「はい。とても落ち着いているし、オシャレです。」
さすが、彼が選んだ店である。
おそらく想像だが、男の人がランチに行こうと言ったら、
ファミレスのようなところではないのだろうか。
あくまで、想像であるが…。
ふと彼と目が合った。
が、私は合ってないふりをして店の外を見た。
私は未だに緊張している状態だ…。
さっきも緊張していたが、彼は運転していたので顔を見ずに話せていた。
「もしかして、僕のこと避けてる?」
「うへっ!?」
思わず出したこともないような奇声を上げてしまった。
「さっきから…いや、初めて会った時からずっと、
僕の目をあまり見ないから…。」
「そっ、それは…」
「やっぱり、僕は顔も見たくないぐらい、
君にとっては不快なものなんだろうか…?」
目を伏せてとても悲しそうな顔をしている。
「違います!全然そんなんじゃないんです!!
私、どうしても恭哉さんを前にすると動悸が…
いえ、緊張してしまうんです!!」
何気にカミングアウトしてしまった…気が……。
その時、店員さんが「お待たせいたしました」と料理を運んできた。
なんて、タイミングが悪い…。
逆に良いのか?
全ての料理をテーブルに並べ、「どうぞごゆっくり」
と言って去っていった。
「………。」
「………。」
奇妙な間ができてしまった。
すると、突然彼がぷっと噴出した。
「ははは…!そんなに必死な顔しなくていいから。」
笑い出すぐらい必死な顔していたんだろうか?
こっちは、誤解されたらいけないと思って、必死だったのに!
「そんなに笑わないでくださいよっ!」
「ふふ…ごめん。あんまり必死に言うから、かわいくってさ。」
彼はクスクスと笑っている。
でも、何だか意外…。
この人でも、こんな風に声を出して笑うんだ。
会うたびに、彼の新しい一面が見えてくる。
“温かいうちに早く食べよう”と言って、料理をお皿に取り分けた。
食べてみると、想像以上に美味しかった。
お腹も減っていたので、食も進む。
「僕に緊張するの?」
もう済んだ話だと思っていたが、まだ覚えていたようだ。
「だって、そんな奇麗な顔で見られたら、誰でもドキドキしちゃいますよ。」
なかなか慣れないものだ。
「ふ~ん…。そっか。」
あれ…?
もしかして、嫌な思いをしたのだろうか?
以前、彼は“周りの人は自分の外見しか見ていない”と言っていた。
私も、その人達と同じだと思われたのかもしれない。