第20話 待ち合わせ
出かける準備を済ませた私は、戸締りをして外に出た。
昨夜の天気予報の通り、今日は快晴。
空を見上げると、季節は秋だというのに、
まだまだ日差しが強かった。
近くの駅までは、徒歩で15分程である。
少し家を早く出てしまったが、遅れるよりはいいかと思い駅へ向かった。
駅について携帯の時計を見ると、10:45だった。
約束の11時までは、まだ時間があったので、ベンチに座った。
駅前にはたくさんの人が居た。
友達や恋人と楽しそうに話していている人や、
私のように誰かを待っているような人など、それぞれだ。
しばらくの間、人間観察をしていると、携帯のバイブが鳴った。
見てみると電話のようで、“四条恭哉”と表示されていた。
「恭哉さんだ…。」
電話に出ると、「もしもし?」という声が聞こえた。
「今駅前の駐車スペースに車停めているんだけど、もう着いた?」
「はい。私も今駅前に居ますので、そちらまで行きますね。」
私が居る場所から、彼の居るところまではすぐなので、
急いで向かった。
きょろきょろして、彼を探して居ると、「こっち」という声がしたので、
目を向けると運転席の窓を開けて、こちら向かって手を振っていた。
「おはようございます。」
「おはよう。走ってこなくてもよかったのに。
助手席に乗ってくれる?」
走ってきたので、少々息が上がっていた私に彼は苦笑した。
助手席のドアを開けて「失礼します」と言って車に乗り込んだ。
「もしかして、結構待ってくれてた?」
彼が気遣うように尋ねてきた。
「いえ、私もさっき着いたばかりです…。」
やばい…緊張してきた……。
運転席と助手席って結構距離が近いんだ。
彼の方をチラッと見てみると、
黒の細身のパンツでTシャツの上に薄手の上着を着ていた。
スーツを着ているところしか見たことなかったので、
意外にラフな感じの私服姿がとても新鮮に思えた。
スーツの時は“できる男”という雰囲気だったが、
今日は本当に雑誌モデルのようだった。
カッコイイ人は何を着てもやっぱりキマっている。
「さて、どこに行こうか…何が食べたい?」
彼が問いかけてきたので、余計な思考は頭の隅に置いた。
「えっと…。私いつも行くっていったら、
カフェが多いので、たまには違うお店にも行ってみたいかなと…。」
大抵、外で食事をするとなると、
友達とカフェに行くので、カフェ以外の店はあまり知らない。
「なら、イタリアンとかどう?近くに美味い店があるんだけど…。」
「イタリアン好きです。そのお店に行ってみたいです。」
そう言うと、彼はこちらに顔を向けて微笑んだ。
「じゃあ、そこに行くか。」
「…はい。」
そんな至近距離で微笑まないで欲しい…。
うるさいぐらいの心臓の音が彼に聞こえてしまいそうだ。
やっぱり、緊張する。
息が上がって変質者のように、はぁはぁ言っていないだろうか…?
平静を保とうとしても、私の意志とは関係なく、
どうしても彼を意識してしまう。
「今日の格好、かわいいね。美緒によく似合ってる。」
「ありがとうございます…。」
運転しながら言われたので、顔は見えなかったが、
向かい合って言われたら、かなり赤面してしまう台詞だ。
照れずにサラッと言える彼がすごい。
「恭哉さんは、私服って結構ラフな感じなんですね。」
「いっつもがっちりしたスーツだから、私服はラフな方がいいんだ。」
「…よく似合っていると思います。素敵です。」
男の人なんて褒めたことがないので、どう言えばいいのか分からなかったが、
感じたことをそのまま伝えた。
「ありがとう。すごく嬉しい。美緒はほめ上手だね。」
彼には負けるが…。
こんなこと、他の人からもいっぱい言われているだろうに、
彼の言葉通り、とてもうれしそうだった。




