第18話 メール
「それにしても、美緒は恋愛に疎すぎるよ。
そりゃあ、今まで彼氏ができないはずだわ。」
「だって、よくわかんないんだもん。」
裕子が言うように、私は恋愛に疎いのかもしれない…。
誰かを好きになったりしたことがないから、
恋愛面が発達不足なのだろうか?
…かなり深刻な問題だ。
「これから、少しずつわかるようになるよ!」
私が深刻に考えていると、裕子が明るく励ましてくれた。
やはり、持つべきものは友達だ。
「それにしても…あの人、ほんっとうにカッコ良かったわぁ~。
顔は完璧に整ってたし、背も高くて超イケメンだった。」
裕子は、うっとりとした表情で彼のことを思い出している。
「彼氏いるクセにそんなこと言っていいの?」
確か、付き合って半年ぐらいの彼氏が居たはずだ。
一度会ったことがあるが、とても物腰がやわらかそうな好青年だった。
「彼氏は彼氏。イケメンは目の保養になるからね!」
「そんなもんかね?」
「だって、カッコイイ人にはどうしても目がいっちゃうんだもん。
でも、カッコイイなぁって思うだけだよ?
そこに恋愛感情はないから。一番好きなのは彼氏だしね!」
裕子はミーハーだが、一番はやっぱり、彼氏なのか。
なんか、のろけられた気がする…。
「美緒さ、彼と連絡先を交換したんでしょ?」
「うん。」
「ちゃんと、連絡した?」
「してないけど?」
裕子は私の方を見て、「はぁ~~」と長い溜息を付いた。
「そこがだめなのよ。いい?
連絡の交換をしたら、その日のうちにちゃんと連絡すること!」
「私からしたら、なんか迷惑かなって思って…。」
忙しい人だから、空気を読まずに連絡なんてしたら、
迷惑かもしれないと思ったのだ。
「遠慮なんてしなくていいの!最初はまず、メールのやり取りからね。
メールなら、向こうが忙しくても、あんまり関係ないし。」
「へぇ~…。」
そうか、メールでいいんだ。
なぜか電話のやり取りしか思いつかなかった。
メールなら、時間のある時に見るから、迷惑にはならないだろう。
「何納得してんのさ。さぁ、早速メールしなさい!!」
「今すぐ!?」
「アンタのことだから、後回しにしたら絶対忘れるよ。
簡潔な文章でいいから、送ってみなよ?」
「ホレ、さっさとする」と急かされたので、メールを送ってみることにした。
“昨日は、ごちそうさまでした。お仕事頑張ってくださいね。”
短いが、これが一番良いかなと思って、彼に送信した。
ちゃんと読んでもらえるだろうか?
「男の人って、あんまり長い文章って読むのがめんどうらしいから、
美緒ぐらい簡潔な文章はきっと読みやすいんじゃないの?」
意識したことはなかったが、そうなのかも。
裕子や他の友達から来るメールは、
絵文字がたくさんあったりするので、結構文章は長い。
対して私の文章はというと、絵文字をあまり使わないシンプルなものだ。
遊びに誘われたときの返事も、“わかった”とか、“了解”という言葉で返すし。
「もっと絵文字とか使った方がいい?」
「別に。美緒はそれでいいんじゃない?
私なんかは、なんでも派手好きだから、
メールもデコらないと気が済まないのよね。」
あははと豪快に裕子が笑っていると、私の携帯のバイブが鳴った。
携帯を開いて見てみると、送信者が“四條恭哉”となっていた。
“メールありがとう。うれしいよ。もう一仕事頑張れそうだ。”
裕子に返事がきたことを言うと、「よかったね」と笑った。
思ったよりも、早く返信があった。
忙しいだろうに、ちゃんと返信してきてくれたことが、
素直に嬉しかった。