第14話 自分の意見
私の家は2階建ての1軒家だ。
父は忙しくほとんど家に帰ってこないため、
実質私が一人で住んでいる。
家の前まで来ると、誰もいないはずの部屋から明かりが漏れていた。
それを見た途端、私は憂鬱な気分になった。
どうやら、ほとんど帰ってこないはずの父が帰ってきているらしい…。
重い足取りで、玄関のドアを開けた。
靴を脱いで、自分の部屋がある2階へ上がろうとしたら、
リビングのドアがガチャリと開いた。
「美緒、何時だと思っているんだ。
ふらふらせずに、早く帰ってきなさい。」
2階に上がりかけていた足を止めて振り返ると、
不機嫌な様子の父が立っていた。
「何時って…、まだ20時前ですけど。」
「いつも、19時までには帰ってきなさいと言っているだろう。」
また、始まった。
今まで何回こんなやり取りをしたことか…。
「もう大学生ですよ?門限が19時なんて、いつまで子供扱いするんですか??」
高校生でも、こんな時間まで遊んでいる子はいると思う。
それなのに、大学生で19時の門限なんてありえない。
「大学生のうちは子供だ。」
よく言う。
ついこの前までは“高校生のうちはまだ子供だ”と言っていたくせに。
「それより結婚のことなんですが、あの時はお父さんが、
私に何の断りもなく勝手に決めてしまっていたので、
怒りのあまり承諾してしまいましたが、やはりお断りします。
結婚はしたくありません。」
不機嫌な父が、より一層険しい顔になった。
「…お前は“わかりました”と言っただろう?なのに断るつもりなのか?」
「はい。そのつもりです。ついでに言うと、事後報告になりますが、
すでに恭哉さんにはその旨をお伝えしました。」
ただし、向こうは納得していなかったが…。
でも、私の気持ちも少しは尊重してほしい。
彼の言い分も理解できる。
政略結婚をする以外の方法はないとわかっている…。
それなら、決められた流れに従っていけばいいが、
私はそこまで物わかりが良くないし、何より気持ちが追いついてこない…。
「恭哉くんに言ったのか!?
美緒…この結婚の、彼の何が気に入らないんだ?
四條グループの跡取りで、仕事ができる優秀な人間、
それに加えてあの容姿だ。
お前にはもったいないぐらいの相手だと言うのに…。」
父は半ば呆れている。
「私も、自分にはもったいないぐらいの、素敵な方だと思います。
ですが、結婚には同意しかねます。
私は、自分の将来をこれ以上勝手に決められたくありません。
私の人生は、私だけのものです。
自分のやりたいようにさせていただきますので。」
前から言おうと思っていたことだ。
私の人生は私だけのもので、父のものではない。
指図されることなく、自分の自由に生きたい。
悪あがきだとは十分わかっている…。
それでも、自分らしく、自由に生きてみたい。
そうじゃないと、人生なんてつまらないままで、
あっという間に終わってしまう。
父に言いたいことを言った私は、そのまま自分の部屋へと向かった。
「美緒…。」
父が小さくつぶやいたのが聞こえたが、私は振り返らなかった。




